消費税の転嫁が難しい訳【2014年 第1回】

【2014年 第1回】 消費税の転嫁が難しい訳。知っておきたい、投資・経済・金融の考え方

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

2014年4月からの消費税引き上げ。消費税引き上げ相当分、3%を小売価格に反映できるかどうか?その難しさを経済学的な見地から見ていきます。次に、今回の予想と以前の消費税引き上げ時の税込の物価動向をつかんでみましょう。

 

 

 

消費税引き上げ後の物価はどうなるのか

2014年4月より、消費税が5%から8%に上がります。消費税引き上げ後の物価はどうなるのでしょうか?引き上げ分の3%を小売店が転嫁できるかどうか。政府は例外的に転嫁カルテルを認めたり、監視の強化を行っています。
経済学的な結論を言うと、3%のうちのいくらかは転嫁できますが全額は難しいということになります。

グラフ1を説明します。縦軸は商品の価格、横軸は販売個数です。とりあえず消費税はないものとします。1つ1,000円の商品が市場で取引され、その商品の供給曲線はS1、需要曲線はDとします。市場ではS1とDの交点Aで需給が均衡しその時の価格は1,000円です。
もし、この商品に10%の消費税が付加されたとき、供給曲線はS2に移動します。10%の消費税を完全に転嫁した場合の価格は1,100円、そこは点Bです。しかし、そこでは需要と交わっていません。需要曲線の1,100円の点は供給曲線の左側、すなわち供給が需要を上回り、売れ残りが出ている状態です。
そのような状態は長続きしません。やがて供給曲線S2と需要曲線Dが交わる点Cが新たな均衡点となります。点Cの価格は消費税付加前の1,000円よりも大きいですが、全額転嫁した場合の1,100円よりも小さくなります。つまり、消費税の実質的な転嫁は一部しかできないことになります。

物価にどのくらい転換できるのか

では、どれぐらい転嫁できるのか?それは供給曲線と需要曲線の傾きにかかってきます。
傾きが急とは、供給曲線であれば市場価格が上がっても、急な増産が困難な商品、例えば農産物など。需要曲線の傾きが急とは、価格が上がっても購入を減らすことが困難な商品、生活必需品が考えられます。ただ現実には供給不足が出れば輸入品が埋め合わせたり、生活必需品でもそもそも十分いきわたっている状態では、需要を抑える、例えば電気料金の引き上げに対する節電など、単純にはいかないとこ
ろがあります。
市場での競争が少ない、公共料金などは転嫁しやすいとも言えます。競争が厳しい市場では、消費税の引き上げに対して、生産者はコストの削減を行い、価格を安くしようと考えますが、競争が少なければコスト削減の誘因は少ないとも考えられます。

今回の引き上げによる予想

それでは、今回の消費税引き上げはどのように予想されているのでしょうか?
グラフ2は1980年からの日本の年末の消費者物価の上昇率についてIMFが作成したデータ(2013年以降は予想)を筆者がグラフ化したものです。これによると2014年の消費税込みの物価上昇率の予想は3.538%。日銀の金融緩和や円安、電力料金の値上げによる物価上昇もありますが、とりあえずは3%を超えています。かなりの部分は転嫁できるとみているようです。
それでは過去はどうなのでしょうか?
1989年の3%の消費税導入時は2.614%。1997年の3%から5%への引き上げ時は2.168%。単純に、消費税引き上げ幅に対する消費者物価上昇率をここでは転嫁率と考えますと、以外にもバブル真っ盛りの1989年の方が、金融危機と円高の1997年よりも転嫁率は低くなっています。原因は、バブル期は不要不急の消費が多かった、その時期の日銀の金融政策の違い、世界経済の動向、など考えられますが、意外
な結果です。

まとめ

2014年はどのようになるのか?短期的には拡張的な金融政策には大きな変化はないと思いますが、他には為替の動向、そして電力料金、原発の再稼働などが物価に対し大きな影響を及ぼすと思われます。
それよりも、アベノミクスの成長戦略が機能するかどうか?それなくしては、たとえ一旦消費税を転嫁できても、デフレを脱却できず総体の物価は元の水準に戻ることも考えられます。

 

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