池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 【第3回】 「赤字体質という日本の財政をめぐる論議」

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

【第3回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 「赤字体質という日本の財政をめぐる論議

池田龍也プロフィール

▼ 日本は借金漬け!

「日本の借金は大丈夫か?」という文脈でよく耳にするのが、
・日本の財政赤字はGDPの何倍!
・日本の財政赤字、借金は、国民一人当たり○○万円!
というような言い方です。
借金が膨らむことへの警戒感、赤字体質への批判、としてよくこのように説明されています。

▼ 財政再建か積極財政か

しかし、財政赤字はそのままにしてはいけない、赤字解消に向けて努力すべきだ、という立場は、実は全会一致で支持されているわけではありません。賛否両論あります。

<6月7日のニュース>
自民党の財政問題で対立する両派が首相に提言
ことしの「骨太の方針」の焦点の1つ、財政健全化目標で、自民党の財政再建派と積極財政派の双方が岸田総理大臣に提言した。政府がとりまとめる、ことしの経済財政運営の基本方針「骨太の方針」では、財政健全化に向けて、「基礎的財政収支」を来年度に黒字化するとした目標をどうするかは焦点の1つ。
自民党の財政健全化を重視する「財政健全化推進本部」のメンバーは、総理大臣に対し、「基礎的財政収支」の来年度の黒字化目標を堅持して、その後も継続的に黒字幅を確保すべきだ提言した。
一方逆に、積極財政派の「財政政策検討本部」のメンバーは、「黒字化に固執することに断固反対する」としたうえで、公共事業に使われる「建設国債」の発行をちゅうちょすべきではないなどと提言した。

▼「骨太の方針」財政健全化目標維持

<6月21日のニュース>
骨太の方針の原案では、財政面で「来年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す」という今の財政健全化の目標は維持した上で、来年度から6年間の新たな経済・財政に関する計画の実行を通じて経済再生と財政健全化の両立を前進させるとした。

結局、財政再建の目標は維持する、とした一方で、経済再生もめざす、という両論併記の結果になりました。家計でいえば、節約もするが贅沢もする、というよくわからない結論になっています。

 ▼「基礎的財政収支」のおさらい

基礎的財政収支とは何か。財務省が説明しています。基礎的財政収支とは以下の資料の中にあるプライマリーバランスのことです。英語訳にしただけですが、「国債の償還・利払いを除く社会保障や公共事業などの行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を、税収等で賄えているかを示す指標」ということです。簡単にいうと、借金の返済を除いて支出が収入の範囲におさまっているかどうか、といことです。
うすいブルーの四角が政策的経費、うす緑の四角が税収、いまは赤字になっていて、2024年度の予算では8.8兆円の赤字になっていると明記されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


財務省資料「財政を考える」より
lhttps://www.mof.go.jp/zaisei/fiscal-soundness/index.html

賛否両論の整理

財政再建、賛成論と反対論の主張をとりまとめてみます。

ご覧のように、主張は全くかみ合いません。どちらが正しいとか、正しくないのか、という問題ではなく、財政運営、あるいは日本経済をどこに導いていくか、という考え方の違いだと思います。

財政はいまどうなっているのか?

財務省の資料から3つ、引用します。

財務省の説明
2024年度予算の国の一般会計歳入112.6兆円は、① 税収等と②公債金(借金)で構成されています。現在、①税収等では歳出全体の約2/3しか賄えておらず、残りの約1/3は、②公債金(借金)に依存しています。
と説明していて、状況は以下の円グラフの通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

財務省資料「財政を考える」より
https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-structure/financial-structure-03.html

 

次は、借金の大きさの比較です。
財務省の説明
普通国債残高は、累増の一途をたどり、2024年度末には1,105兆円に上ると見込まれています。また、財政の持続可能性を見る上では、税収を生み出す元となる国の経済規模(GDP)に対して、総額でどのぐらいの借金をしているかが重要です。日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

財務省資料「財政を考える」より
https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-situation/financial-situation-01.html

なぜ支出が増えていってしまっているのか。

財務省の説明
1990年度と現在の歳出を比較すると、社会保障関係費や国債費が大きく伸びています。特に社会保障は、年金、医療、介護、こども・子育てなどの分野に分けられ、国の一般会計歳出の約1/3を占める最大の支出項目となっています。
歳出の増加に対し歳入は、経済成長の停滞などが影響して税収の伸びが見合っておらず、不足分を借金に頼っているため、公債金は約6倍と大幅に増加しています。

 

 

 

 

 

財務省資料「財政を考える」より
https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-situation/financial-situation-02.html

 ▼「ザイム真理教」という反論

財政均衡主義、財政赤字がいけないという主張は、さきほど賛成論のところでご紹介しました。これに対して真正面から反論する本が去年出版されて話題になりました。経済アナリストの森永卓郎さんが書いた「ザイム真理教」という本です。

内容を簡単にご紹介すると、財務省は借金ばかりを強調しているが、それはおかしい。国の借金は1661兆円というけれども、保有資産も1121兆円あるので、収支でいうと、実際の借金は540兆円にとどまる。よくいわれるGDP比でいうと102%となる。また、コロナ対策で国の借金が急増したが、心配されていた物価高、国債暴落、通貨安は起きていない。

森永さんは、「ザイム真理教」と名づけた財政均衡至上主義のもと、増税と社会保険料引き上げが行われた結果、日本経済を破壊してしまったと説明しています。

 ▼ 財政から考えるか、必要な予算は何か、から考えるか

財政収支の観点から考えると、いまは大きな赤字、その理由は、必要な予算が膨れているから、ということになります。大きな赤字をどうすればいいのか、支出を減らすか、収入を増やすか、ということになります。

一方で、いまの予算が、国民を守るために必要ということならば、借金を嘆くことはない、国民のための予算なのだからと堂々と言えばいいのではないかと思います。

財政運営をめぐって、財政再建か積極財政かで平行線をたどるのではなく、じゃあどうするのか、もっと知恵を出せないものかと、つくづく思います。我々の年金や健康保険などと直結している大事な話なのですから。

ただこの議論、もう100年ほど前になる、経済学の泰斗ケインズの時代でも、議論されていた、昔から延々と続いているテーマで、なかなか決め手を欠く、正解はない分野でもあるようです。

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