ブラックスワン的考え方 (ポートフォリオ理論の限界)【2010年 第5回】

【2010年 第5回  ブラックスワン的考え方 (ポートフォリオ理論の限界)
】 金融危機から顧客を守れた理由

岩田 亮 プロフィール

ナシーム・ニコラス・タレブ著の “ブラック・スワン” という本をお読みになったことはありますか?

投資関連の書籍としては、きっとここ数年における最高傑作でありますから、投資家の方にも、投資のアドバイスをする方にも、ぜひ一度はお読みいただきたい一冊でございます。

ここでその論旨の解説はいたしませんが、本の中では、長らく投資の王道であった“モダンポートフォリオ理論”を真っ向から否定するという、驚くべき論述が展開されております。

特に同理論を信奉する金融業界にとってはかなり衝撃的な内容だと言えるでしょう。

現代ポートフォリオ理論(MPT)の原型をハリー・マーコヴィッツが生み出したのは、戦後間もない1952年のことでした。
当時の世界は世界大戦で瓦礫の山でしたから、そこからの復興の過程では、世界経済はたいへん長期にわたる成長を遂げてまいりました。

当然株式市場も同じ系譜をたどりました。
例えば日本株市場では40年の長きにわたって安定した上昇トレンドを描きましたが、その間は(資産バブル崩壊以後幾度となく経験したような)体が凍りつくような大暴落を経験することはありませんでした。

 

そんな安定成長下では、(投資先の各資産が長期的に成長をすることを前提とした)ポートフォリオ理論は、たいへん有効な投資の考え方であったのです。

値動きの異なる運用資産を適切に組み合わせることで、短期的な運用成果のブレを抑えながらじっくりと成長を待つ…それがうまく機能すれば、それがあたかも「預金」であるかのような安心感をもって運用成果が積み上がっていきます。

そんな時には売ったり買ったりを繰り返す必要はありません。むしろしっかりとポートフォリオを組んで思い切って放置しておくほうが、実際に運用結果も良かったはずです。

MPTの考え方の最大の特徴は以下の2点にあると思います。

成長期には機能していたこれらの特徴が、成熟期に入ったマーケットでは色々と不都合をもたらすこととなりました。

  1. 過去の値動きのデータから、アセットの特性を数値(リターンとリスク)で固定化する。
  2. リスクは標準偏差で表すが、その1シグマだけを相手にし、それを大きく超える「3シグマや5シグマの値動きは起こらないこと」として無視する。

 

 デリバティブが主流となったマーケットでは、100倍のレバレッジをきかせた投機マネーが縦横無尽に暴れまわります。
残念ながらそれがマーケットの現実でありますから、もう成長期の平和なころのマーケットとは環境が様変わりしてしまっているわけです。

 1シグマだけを相手にしていてもだめなのです。リーマンショックの時は7シグマが普通に起こりましたし、(7シグマは極端としても) 3シグマや5シグマが現実となるような環境変化は起こりえるのです。

急激な相場変動は、川下りをしていて遭遇する“大きな滝”に相当します。実際に滝壺に落ちれば、たいへんなケガをして回復に多くの時間を要するでしょう。

すなわち、このコラム連載の中でも何度も繰り返して述べているとおり、「投資運用では残高を大きく減らしてはならない」のです。

しかしながら、投資をするということは実際に舟に乗ることを意味します。
大きな滝がひとつでもあったら、相当の確率でケガをしますし、運が悪ければ命を落とすことにもなるのです。

モダンポートフォリオ理論では滝はいっさい存在しないことになっています。
でも現代のマーケットは、むしろ滝だらけであると言えないでしょうか…?

 このところ米国政府が、金融機関が夢中になっていた過激なデリバティブへの規制を模索しているようですが、それが不調に終われば、今後も3シグマ…いや5シグマの変動(暴落)が起こることを想定した運用方針を構築する必要があると考えます。

 もちろんそんな荒廃した投資環境を好む人などいないでしょう。
もちろん筆者も例外ではありません。モダンポートフォリオ運用で成果が出せる、平和な時代がまた来れば良いのですけれど…。

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