~もうひとつの特例法~ 「年金時効特例法」【2008年 第7回】

【2008年 第7回 ~もうひとつの特例法~ 「年金時効特例法」】年金コラム

佐藤 朋枝(サトウ トモエ)⇒ プロフィール

 

記録は回復したのに、年金が支払われない!

平成21年1月20日付の朝日新聞には、「社会保険庁のずさんな管理などによる年金記録の誤りが確認され、全国の社会保険事務所が記録訂正の作業をしている受給者の記録が、昨年末時点で11万8,000件あることが19日わかった。

記録の誤りが確認されてから、本来の年金額が受給者に支払われるまで平均9ヶ月かかっていることも明らかになった」という記事が掲載されていた。

年金は、60歳などの年齢に達すると自動的に受け取ることが出来るようになるわけではない。いわゆる「請求主義」の原則にのっとり、年金は本人からの請求(裁定請求)がなければ、支払われないのである。

このため、「手続きを知らなかった、あるいは忘れていた」「受け取りを先延ばしにするほど、増額されると思っていた」などの理由から、本来受け取るべき年金を受け取れない事態が多々発生していた。

というのも、『年金給付を受ける権利は、その支給事由が生じた日から5年を経過したときは、時効によって、消滅する』という法律があるためなのだ。

時効5年を超えた分の年金を受け取れない事態の根本にある「請求主義」には当然、多くの批判が集まったために、社会保険事務所では受給権が発生する人(主に60歳の人)に対して、事前(3ヶ月前)に裁定請求の書類を送付して、手続きを促すようになった。

しかし時効5年の原則に基づいたのであれば、「宙に浮いた年金」記録が見つかったために、新たに年金が増えるケースや受給権が発生したケースであっても、年金の裁定手続きから5年前まで遡った分の年金しか受給できなくなるという問題が残ってしまう。
そこで、この時効の壁を取り払うために制定されたのが、「年金時効特例法」である。

社保事務所ミスの場合は、時効は撤廃というけれど・・・

ちょうど1年前、「年金時効特例法」に基づいて、再度、宙に浮いた年金分の請求手続き(再裁定)の相談を担当した際、遡って受給する年金の支給日について、社会保険事務所側は「本来の時効5年分については手続きから半年後、時効撤廃分については1年後の支給」と説明していた。

しかし前述の新聞記事によると、再裁定の申請数が莫大にも関わらず、担当職員が少ないために支給時期がずれにずれ込んでいる、という。

再裁定を行っているのは高齢者が多く、「ようやく年金記録が見つかったのに、いつまで経っても支払われない。自分が生きている間に、本当に受け取れるのだろうか?」という不安や落胆の声を耳にする。

これに対して、舛添厚労大臣は担当職員を増やして早急に対応するというが、そもそも年金額の計算は複雑であり、たとえ社会保険事務所の窓口にある端末で年金額を試算しても、「これは、あくまでも見込み額であり、正式決定額は年金証書で通知する」という注意文が添えられてしまう。

増員されても、複雑な年金の計算を正確に、迅速に行えるのだろうか?という疑問は残る。

また再裁定後、増額に関する通知が年金受給者に郵送されるが、この文面を見た高齢者が「時効に関係なく、すべての年金を遡って支給すると聞いたのに、ここには時効5年分しか支払わないと書いてある!」と訴えて来るケースが多い。

これは、まず1回目で時効5年分の支払いを先に行い、その後2回目で時効撤廃した全遡り分の支払うという内容が書かれているのだが、難解な言い回しを用いているために、誤解を生じさせてしまうのだ。用語の使い方ひとつをとっても、社会保険事務所に山積する問題を感じてしまう。

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