今日の相続空模様①~遺産は分割しないといけないの?~【2010年 第1回】

【2010年 第1回】 今日の相続空模様①~遺産は分割しないといけないの?~ 家計コラム

平川すみこ ⇒プロフィール

相続人が一人だけしかいなくて、その方が亡くなった方の財産をすべて引き継ぐのであれば、分割する必要はないでしょう。遺産分割が必要になるのは、相続人が複数いる場合です。

いや~、分けるほどの財産じゃないし・・・と思っても、実際には亡くなった方の預金の引き出しや自宅といった不動産等の名義換えをすることも、遺産分割になるのです。

一人が全財産を引き継ぐ場合でも、相続人が複数いれば、全員の合意がないと手続きができません。つまり、相続人Aさんが割合1、他の相続人が割合0という遺産分割をしたということなのですね。

遺産分割はしないといけないの?

しないといけないということはありませんが、遺産分割をしなければ名義換えができません。財産の名義を換えていないと後々困ったことも起きてきます。

例えば、銀行預金。口座の名義人が死亡すると、口座が凍結されて、預金が引き出せなくなってしまいます。誰が預金を相続するかを相続人全員が署名、押印して合意したとする書面(通常銀行独自の書面があります)と相続人全員の印鑑証明書、亡くなった方の出生からのすべての戸籍・除籍謄本の提出が求められます。手続きが終了するとようやく預金を受け取ることができるようになるのですが、手続きをしなかったらどうなるでしょう?

もちろん預金がずっと引き出せないですし、何もせずに年数が経過してしまうと、その間に相続人のうちの誰かが死亡してしまうこともあります。その方にお子さんやお孫さんがいれば、相続人としての権利は引き継がれます(これを代襲相続と呼びます)ので、いよいよ預金の引き出しを!と思ったときには、相続人が増えていて手続きがさらに煩雑になってしまいますよね。

同じことが株式や債券等の他の金融商品でもいえます。配当や利子・償還金を受け取る際は、口座振込みであれば名義人の預金口座に入金されてしまいますし、金融機関で受け取る場合には、相続人であることを証する書類等を持って行く必要があります。

売却をするにしても、名義人本人は死亡していますので、名義書き換えをした上でしか売却できないのが一般的です。では、名義書き換えのときに代襲相続になっていたら?・・・もうおわかりですよね。

不動産は名義換えしなくていい?

不動産の場合、名義換えをせず死亡した者の名義のままでも、使用することができます。名義換え(相続による所有権移転登記)には、登録免許税がかかります。そのためなのか、名義換えをしないままの不動産が多く存在します。

先祖代々長男が引き継いでいる土地だから、と思っていると大変なことになります。三代くらい放っておいて、その土地を売ろうとしても、分割していなかったので、相続人全員の共有財産になっているため、相続人全員が売主となって売らなければならない事態に。

三代目の長男の単独名義にしようとすると、相続人全員の合意と署名・押印が必要になります。相続人の数も相当に増えているでしょう。中にはまったく会ったことのない遠い親戚も相続人として存在することもあります。

さらに、全員が納得してスムーズに印鑑を押してくれればいいのですが、印鑑を押すからお金をくれと請求されることもあります。そのため、わざとゴネる輩も出現しかねず、時間もお金もかかってしまうことにも。

初代、二代目の相続の際に、ちゃんと遺産分割をし、当時は家督制度で当然長男が全財産を相続するはずだったとしても、代々名義換えをしていたら、三代目はいらぬ苦労をせずに済んだのに・・・ということなのです。

ちゃんと名義換えをするのは、子孫の平和のためでもあるのですね。

不動産の共有名義はおすすめできない

ところで、遺産分割の際に、不動産だときっちり法定相続分に分割できないので、法定相続分を持分とした共有名義にする場合がありますが、これはおすすめできません。やはり、代が進むにつれて共有者が増え、売却する際が大変になるからです。

そうはいっても、現預金はほとんどないから不公平になるし・・・

そんな悩みを相続人たちがもたなくてもいいように、亡くなる方は現金の財産も遺すように心がけたいものですね。現金の準備には生命保険を活用する方法もあります。

また、遺言で財産ごとに相続する者を指定しておくことも、スムーズな遺産分割につながります。

共有にするとこうなっていくの図

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