【2011年 第9回】 介護施設を選ぶ① ~実録介護保険~
浅川 陽子(アサカワ ヨウコ)⇒ プロフィール
~入りたくても入れない「特別養護老人ホーム」、入居待ちは様々な形で~
4年前に介護認定を受け、在宅サービスを受けながら生活をしていた私の両親も、昨年11月に父の世話をしていた母の入院を契機に、今年2月、老人ホームに入居することになりました。脳出血で入院した母には重い糖尿病という持病もあり、主治医から、退院後施設で暮らすことを勧められ、要介護3の父も一緒に入居できる施設をさがすことになったのです。
「親を施設に入れる」というのは、子としてやはり葛藤があります。それでも、主治医の先生から「娘さん1人で介護できる状況ですか?」と言われ、主治医に肩を押される思いで施設選びを始めました。「両親を老人ホームに入居させた」と周囲に話すと、驚いたことに、「実は、うちも親がホームで生活しています。」という話がどんどん出てきます。「施設で暮らす」という状況は、高齢者にとってはもう特別なことではなく、ごく普通のことになっているんだということを実感しました。
<費用面で安いのは公的な施設>
公共の施設は、「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」、「介護老人保険施設」、「介護療養型医療施設」の3つですが、長期的に介護を受けながら生活できる施設は、「介護老人福祉施設」、通称「特養」といわれている施設です。
費用については、かつての「特養」は4人部屋(多床型)で6万円前後の自己負担でしたが、2003年以降の「新型特養」では個室が中心になり、居室代と食事代が全額、自己負担になり、1ケ月の負担額が合計で12~17万円ぐらいになります。
なお、「新型特養」では10人程度のグループごとに専属の介護職員がつく「ユニットケア」を行っています。「ユニットケア」とは、食事、入浴、レク等の日常生活をユニット単位に行い、少人数の家庭的な雰囲気でケアを行うものですが、居室も個室で、従来の運営方式よりはどうしてもコスト面で割高になるといわれています。
上記の費用は、私の実家の近くにある「特養」のものですが、特養の自己負担額は、施設によっても差があります。居室にかかる費用は一般に月5~6万円といわれているので、こちらはやや居室にかかる費用が高めといえるかもしれません。なお、「居室」と「食事」についての自己負担額は、低所得者等に対して、自己負担額を低減してくれる「負担限度額」認定制度が設けられています。
<入りたくても入れない「特養」>
「ユニット」型になって自己負担額が増えたとしても、まだ、民間の有料老人ホームに比べれば安価といえ、入居希望者は多く、入居を希望してもすぐに入るのは厳しい状況だといわれています。現在、入居待機者は全国で約42万人、東京では、4万人以上、神奈川でも2万人以上だそうです。「特養」では、「介護度」や「介護者の有無」、「住居の状況」など一定の項目で点数化し待機者リストが作成されるので、数ヶ月で入居できる人もいれば3 年以上待つ人もいます。
かつて、「特養」に勤務し待機者リストの管理をしていた方に話を聞いたことがあります。
退去者が2人出て、新たに2人の入居者を選ぶ場合、待機者リスト1位と2位の方が2人とも要介護5の場合、いっぺんに要介護5の方を2人も受け入れができないというような施設の事情で、リスト1位の方と2位より下位の方を受け入れることもあるということです。
実は、私の親戚で、90歳を過ぎてすぐに「特養」に入れた人がいます。それまで60代の1人娘が介護をしていたのですが、娘の夫が脳梗塞で倒れ入院したため、ケアマネージャーから、「今なら、特養を申し込めば入居できますよ」と勧められ、申し込んだそうです。親戚のケースはかなりラッキーなケースと言えるかもしれません。
<入居待機も様々な形で>
「特養」入居を申し込んで、入居できない方はどのように待機しているのかというと、在宅サービスを受けながら待つという場合が多いと思われます。
しかし、その他のケースとして、以前、父が利用した、安価で利用できる「ショートステイ」で、ほとんど毎日過ごしているという方がいました。1ケ月間、すべて「ショートステイ」を利用することができないので、1ケ月間の内、数日だけ自宅にもどるという生活で、「特養」入居を待っているというのです。
また、有料老人ホームで、入居金がほとんどかからないというホームにいったん入居し、「特養」待ちをしている方もいました。
<「サービス付高齢者向け住宅」の登録制度10月スタート>
「特養」の待機者が多い状況の中で、「高齢者専用賃貸住宅」は増えています。これは、賃貸住宅でありながら、提携している事業所の在宅介護サービスを受けられるもので、費用の方は、家賃の他に別途契約する在宅介護サービスの費用がかかり、月20万円前後の負担になります。「特養」待機者でもこの「高齢者専用賃貸住宅」を利用している場合もあるようです。
「高齢者の住まいに関する法」の改正により、この秋から「サービス付高齢者向け住宅」の登録がスタートします。登録は都道府県等が審査し指導監督しますが、登録の基準には設備基準の他、「安否確認」や「生活相談」のサービス提供が義務付けられ、契約者の保護規定も強化されます。
一方、事業所には、登録のための建設・改修への補助金や税制優遇措置もあり、国土交通省は、今後2020年までに「サービス付き高齢者向け住宅」を中心に60万戸の高齢者向け住宅の確保を目指しているといいます。
2012年4月からは介護保険制度改正で、1日に何度でも利用者を訪問して短時間介護・看護を行う「24時間対応サービス」が導入される予定になっており、在宅サービスの充実は「サービス付高齢者向け住宅」の質にも直結します。サービスの充実により、今後は要介護度の高い人の受け皿としても、「サービス付高齢者向け住宅」が機能していくことを期待したいものです。
この記事へのコメントはありません。