ひとり娘の相続【2012年 第5回】

【2012年 第5回 ひとり娘の相続】女性のための幸せ相続を考える

マイアドバイザー®事務局 株式会社優益FPオフィス

「私は相続放棄するから、財産はお母さんが全部受け取ってね。」ひとり娘の家庭で相続が起きたとき、「相続放棄」についての誤解が予想しなかった事態を招いてしまうことがあります。

■  「相続放棄」の思い込みが、トラブルの元に

父親が亡くなり、相続人は母親とひとり娘というご家族のお話です。独身のひとり娘は、父親の残したマンションに母親と同居中です。

遺言はなく、相続財産は父親名義のマンションといくらかの預貯金でした。親思いのひとり娘は母親とも仲が良く、遺産分けの際も相続争いなどのトラブルの余地はないものと思われました。

ひとり娘は、「お父さんの財産は、お母さんの支えがあったからこそできたもの。私は何もいらないから、お母さんがすべての財産をもらえるように、相続放棄をするわね。」と言いました。母親も娘の優しい気遣いをありがたく受けることにし、相続放棄は家庭裁判所で手続するものと聞いていたひとり娘は何の迷いもなくそのとおりにしました。

相続放棄の手続も済み、あとは金融機関で預貯金の名義変更と、法務局で自宅マンションの相続登記を行えば母親のこれからの生活も安心、となるはずだったのですが・・。

手続に出向いた金融機関でも法務局でも、財産を母親1人のものにする名義変更は認められませんでした。一体なぜなのでしょうか?

■  民法上の相続放棄で、相続人が増えた!?

それは、ひとり娘が民法上の相続放棄の手続をしたために、初めから相続人とならなかったとみなされ、第1順位であるひとり娘の相続権が次の順位の相続人に移ってしまったことにあります。民法上の相続放棄とは、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所にその旨を申述して行うことです。

このご家庭の場合、第2順位である祖父母は既に他界しているので、第3順位である父親の5人の兄弟姉妹が相続人となり、相続人の数は母親を含めた6人に増えてしまいました。

母親ひとりが全財産を相続するためには、父親の5人の兄弟姉妹全員が相続放棄をするか、相続人同士で遺産分割協議をして全員が同意しなければなりません。もし1人でも反対の意思を示し相続分を要求した場合には、金銭を渡すか、それができなければ最悪の場合、母娘が住んでいるマンションを売却換金せざるを得なくなり、母娘ともども生活の基盤を失うことになってしまいます。

■  民法上か、事実上か?違いを知って、娘も母も幸せ相続

上記は、民法上の相続放棄の手続をしたことで、ひとり娘の母を思う心遣いがかえって話を難しくしてしまった例ですが、「相続分の放棄」という形であったならば母娘間だけの話で済みました。相続放棄と、相続分の放棄とでは手続も効果も違ってきます。

「相続分の放棄」というのは、財産を単純相続(プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続すること)した後に、母と娘とで遺産分割協議を行い、娘の取り分がゼロであることを記載した遺産分割協議書を作るなどの方法により、事実上の遺産の放棄という形をとることです。

民法上の相続放棄とは法律上の効果が違いますが、どちらの場合でも相続放棄という同じ言葉で表現されることが多々あるため、同じものと誤解される方が少なくないようです。

相続財産の中にマイナスの財産(借金)がある場合には注意が必要です。「相続分の放棄」は、相続放棄と違ってあくまで相続人同士の取り決めにすぎず、相続人としての地位まで失うわけではないため、借金まで放棄したことにはならず債権者との関係では借金の支払い義務が残るからです。

相続財産が明らかに借金のほうが多い場合、借金返済を回避するためには、相続人が家庭裁判所で民法上の相続放棄の手続を踏み、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないようにする必要があります。

このように、「相続放棄」と「相続分の放棄」は、似ているようでも違うものです。ひとり娘と母親の例に限ったことではありませんが、特定の1人の相続人に相続財産を集中させたい場合には、これらの違いをふまえ、相続財産の内容(プラスの財産とマイナスの財産)や相続人の状況、税金面での違い等も考慮した上でどの方法をとるのが良いかを慎重に検討することが大切です。

少子高齢化や未婚・非婚率が高まるにつれ、父親亡き後、母親と同居のひとり娘とで相続手続を行うという家庭も増えてくるかもしれません。ひとり娘が母親のために「私は財産はいらない」と考えたとき、こうした違いがあることを知っておくと、思わぬトラブルを避けることができ、母娘の今後の生活を守ることにもなるでしょう。

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