相続放棄は3か月以内だけど、その期間過ぎてもできる場合がある?!【2016年 第1回】

【2016年 第1回 相続放棄は3か月以内だけど、その期間過ぎてもできる場合がある?!】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ

 竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール

相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。
今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、実際に起こった相続関連のできごとの事例を挙げてお伝えします。

 

 

1 相続放棄とは

みなさん、相続放棄という言葉はご存じでしょうか。
相続放棄とは民法939条に規定されており、相続人が相続による効果の帰属を全面的に拒絶する意思表示のことをいいます。相続放棄した人は始めから相続人とならなかったものとみなされるのです。
その手続きは、民法915条に規定されており、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述(つまり、申請の書類を提出)をすることによってできます。
一般的に「相続を放棄した」といっても、この手続きを経ないかぎり民法上の相続放棄にはならないので注意しましょう。

2 3か月過ぎても放棄できるの?

ところで、3か月以内という期間、短すぎると思いませんか。
家族が亡くなり、悲しみにふせっているうちにあっという間に3か月経過しますよね。
自分が、亡くなった人(以下、被相続人)の相続人であったことを知ってから3か月経過してから被相続人の莫大な借金が見つかったり、被相続人が誰かの連帯保証人になっていたことがわかったりした場合、その事実がわかったときから3か月以内であれば相続放棄が認められることがあるのです。

3 死亡後15年経過して相続放棄が認められた!

実際のケースを見てみましょう。

父親が亡くなって15年も経過したとき、その相続人である長女のもとにA銀行から内容証明郵便が届きました。
その文書によると、16年前、父親の友人が銀行と締結した継続的な借り受けの連帯保証人になっていたのが父親で、最近になって友人がA銀行へ借金を返せなくなり行方不明になりました。
A銀行は連帯保証人の父親が15年前に死亡していたことを知り、顧問弁護士がその相続人を調査し、相続人である長女に対し連帯保証債務(お金を借りた人の連帯保証人として銀行へ支払わなければならない義務のこと)の履行を求めてきたのです。

長女はこの文書に大いに驚きました。なぜならば、父親が死亡したときに死亡の事実は知っていましたが、ほかの相続人の一人である兄(長男)と長女との仲がとても悪く、父親の残したプラスの財産やマイナスの財産のこと、まったく知らせてもらえず、長男からは父親の財産はプラスもマイナスもまったくないと聞かされていたからです。
父親の死亡後すぐから長男とは音信不通でしたから、父親の死亡後15年間、父親の財産に関することを知るすべもありませんでした。

A銀行からの内容証明郵便が届いた時点は、被相続人の死亡したことを知ったときからは15年経過しているので、3か月はとっくに過ぎていますが、内容証明郵便が届いたことにより被相続人の死亡時のプラスとマイナスの財産のことを知ってからは3か月経っていない時点ですので、長女は家庭裁判所に相続放棄の手続きを行うことにしました。

被相続人が死亡したことを知ってから3か月経過しているのに相続放棄が認められるためには、手続き書類に「上申書」という裁判所へのお願い文書を別途付けることがポイントなのです。
この上申書は、父親の借金を調査することができなかった事情として自分は父親やほかの相続人とはあまり交流がなかったこと、父親の財産はプラスのものもマイナスのものもまったく引き継いでいないことを記載しなければならず、なるべく手書きでわかりやすくまとめたものにしましょう。

結局、この長女は相続放棄手続きが認められ、A銀行にはその事実を伝えて、借金を返済する義務を免れました。

みなさん、相続放棄をしなければならない事情がある場合は、すぐにあきらめずに、この事例を参考にしてくださいね。

なお、上記事例はあくまでも総合的な事情を裁判所が判断した結果、相続放棄が認められたにすぎません。
ケースによっては結果が異なりますことを申し添えます。

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