「厚生年金特例法」という分厚い壁【2008年 第6回】

【2008年 第6回 「厚生年金特例法」という分厚い壁】年金コラム

佐藤 朋枝(サトウ トモエ)⇒ プロフィール

 

「厚生年金特例法」って何?

厚生年金の保険料が従業員の給与天引きされていたのに、会社が社会保険事務所に保険料を納付していなかったり、そもそもの厚生年金加入の手続き自体を怠っていると、従業員の厚生年金は未加入になってしまう。

しかも2年を経過してしまうと、時効によって保険料を納めることはできなくなるので、従業員が厚生年金の保険料を給与天引きされているのにもかかわらず、未加入の状態を回復させる手段はこれまでなかった。

保険料の徴収権が2年を経過した後に消滅してしまう、という時効を撤廃したのが、「厚生年金特例法」である。
つまり、第三者委員会で厚生年金の保険料が給与から天引きされていたことが認められれば、特例法により社会保険庁に対して、厚生年金の未加入→加入と記録訂正のあっせんが行われるのだ。

保険料控除がポイント

特例法により記録訂正のあっせんが行われる上で重要なポイントになるのが、「厚生年金の保険料が給与から天引きされていたことが認められる」という点。
第三者委員会に申立を行う人は、「自分は確かにA社で働いていた。それなのに厚生年金が未加入になっているのは、おかしい」と主張する。

元同僚の証言や雇用保険の加入記録などから、申立を行った人が確かにA社で働いていたという事が分かっても、申立内容を認めて社会保険庁の記録訂正が行われる訳ではない。
保険料控除、を証明するためには、申立を行った本人が当時の給与明細書を持っていれば、強力な証拠となる。

しかし、何十年も前の話となれば、当時の給与明細書を持っている人は稀だ。
そういった場合には、当時の家計簿に控除された厚生年金保険料の金額が記載されているか、同じく未加入になっている元同僚が当時の給与明細書を持っているか、事業主が保管している賃金台帳に従業員の保険料控除額が記載されているか等、第三者委員会は範囲を広げて申立を行った人の保険料控除を確認することになる。

しかし昔の話であるほど、保険料控除を確認できる物証は乏しい。
このため、未加入期間の厚生年金保険料の給与天引きが証明されなければ、たとえA社の勤務期間の一部に厚生年金の未加入が生じていた場合であっても、第三者委員会による記録訂正のあっせんは行われない。

厚生年金に関する申立の7割が認められないのは、保険料控除という大きな壁が存在するためなのだ。

ズサンな記録管理が問題の根本

平成9年1月1日以降、年金の事務管理は基礎年金番号ひとつで行われることになった。
しかし一本化の作業(統合)からもれてしまった手帳番号は、宙に浮いた状態となってしまった。
年金受給手続きの際、社会保険事務所ではコンピューターで氏名検索をして、基礎年金番号以外に本人と同姓同名の宙に浮いた年金記録がないかどうか、確認をすることにしている。

しかし結婚前の旧姓での記録であったり、コンピューターに登録された氏名や生年月日が間違っていたり等の理由で、本人確認が取れないまま、実に多くの記録が年金額の計算に含まれない状態で宙に浮いていたのである。

ほかにもコンピューター導入前、紙台帳で管理していた記録をオンライン化する際、たくさんの入力ミスが発生した。
名前の読み間違えでまったく違う呼び方で登録されていたり、資格取得時からではなく途中の記録から入力されていたり、実に杜撰な事務処理が行われていた。
このためコンピューター上は記録がなくても、大元の紙台帳には正しい記録が存在していた、というケースもたくさん見られる。

5000万件の宙に浮いた年金記録の持ち主を探すためには、国民一人一人の記憶(どこの会社に、いつごろ勤務していたか等)に頼らざるを得ない。
しかし30年、40年前の話や1、2ヶ月といった短期の勤務に関してとなると、記憶は曖昧で、照合作業がなかなか進まない要因になっている。

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