池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 【第25回】認知症をとりまく環境は大きな転換期を迎えています ~認知症は「治す」から「共に暮らし支える」へ~

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

【第25回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 認知症をとりまく環境は大きな転換期を迎えています~認知症は「治す」から「共に暮らし支える」へ~

池田龍也プロフィール

▼ 認知症ケア学会

6月6日、7日の2日間、東京有楽町の東京国際フォーラムで「認知症ケア学会」の大会が開かれました。認知症の治療、ケアの専門家や研究者が一堂に集まり最新情報を発表、共有する場で、3000人余りが参加しました。
その大会の発表や講演を踏まえて、認知症をとりまく環境がどうなっているのか、最新事情をとりまとめてみたいと思います。

▼ 「認知症」の登場

厚生労働省が20年余り前の2004年、「痴呆」とよばれていた高齢者の状態を「認知症」と呼ぶことにしました。「痴呆」という言葉に否定的、マイナスのイメージがあるため、というのが理由でした。そもそも「痴呆」という用語は、1909(明治42年)年、ドイツ語Demenzの訳語として採用されました。「狂」などの字を避けて、やわらかい表現の言葉にしたいきさつがあったそうです。

1972年に発刊されベストセラーとなった「恍惚の人」では、社会派作家といわれた有吉佐和子が、高齢化が進む中で「痴呆」が社会問題になってくることを鋭く世に問い、「痴呆」のイメージは否定的な意味合いをもって語られるようになりました。

しかし、用語が変わって、ひとたび「認知症」という言葉が登場すると、「認知症」の人は、「認知症」と診断をされた病気の人となってしまいました。「認知症の患者」となると、病気の患者なので、治療する対象、医療の担当分野、ということになり、「認知症の患者」は医療の中に取り込まれてしまった感がありました。

▼ 認知症ケアの今

しかし、医療の分野だけで、認知症への対応が十分でないことは、その後の歴史が如実に物語っています。ご存じのように、医療の分野の治療、薬物療法だけでは十分ではなく、認知症の人への介護、ケアは、各分野の専門家も加わって、さまざまな工夫をしながら日々格闘しているのが実情です。

▼ 認知症のとらえ方は大転換

大会では合言葉のように「新しい認知症観」という言葉が飛び交っていました。講演などのタイトルも「認知症の患者」ではなく「認知症の人」と呼ぶようになっていました。これが何を意味しているかというと、
認知症は病気→→認知症は病気でくくるだけでは解決しない
認知症は治す対象→→認知症は支援して共生する対象
というような世紀をまたいだ大転換が起きているんだそうです。

先鞭をつけたのはイギリス。認知症を、治すから支えて共に生活する、という政策転換をして、それを前面に打ち出し国を挙げて体制を作ったそうです。
(詳しくは下記論文をご覧ください)
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英国政府は2009年2月『認知症とともに良き生活(人生)を送る:認知症国家戦略』(Living wellwith dementia: A National Dementia Strategy)を発表し、2014年までの5年間を認知症ケア改善に取り組む集中改革期間と定め、包括的な政策方針(17の目標)を打ち出した。この認知症国家戦略のタイトルに含まれるLiving well with dementia、すなわち「認知症とともに良き生活(人生)を送る」ということの実現がこの国家戦略の最終的かつ最大の目的である。
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英国の認知症国家戦略 西田 淳志 より
海外社会保障研究 Spring 2015 No. 190
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/20038602.pdf

日本でも、イギリスに遅れること10年、同じような認識のもと、体制整備への基本構想の策定、法整備も進み今に至っています。
2019年 認知症施策推進大綱
https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf
2023年 認知症基本法
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC1000000065

ここに盛り込まれた考え方をひと言にまとめると、
「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること」
つまり「支えて共に生きる」ということです。治す対象の「認知症の患者」から一緒に暮らしていく「認知症の人」へ、と大きなパラダイム転換が起きています。

▼ 特効薬と言われた薬のその後

ようやく認知症(アルツハイマー型)の根本治療薬が登場したといわれたのは3年前でした。アメリカで承認され、日本でも承認、発売へと進みました。
それまでの薬は、認知症の進行を遅らせることはできるものの、進行を止める、あるいは治療することはできなかった。それが、新薬の登場で可能になったと騒がれました。「夢の根本治療薬」登場というふれ込みでした。
アルツハイマー型認知症の原因といわれる、脳に溜まったアミロイドβという特殊なたんぱく質を取り除くことができる薬という説明でした。
この特効薬といわれた薬は2種類あり、以下の通りです。

▼ 1年半後の治療結果

この「レカネマブ」の使い方ですが、認知症の初期の人、あるいは認知症の前段階の軽度認知障害の人を対象に、2週間に1回点滴で静脈内に投与、1年半続けます。新薬が実際に使われ始めてちょうど1年半がたったころ、認知症の専門家の話を聞く機会がありました。

その専門の先生は、
認知症の検査をしてみると、新薬を投与した方には確かに効果はある。投与しない場合と比べて、明らかに(統計的に言うと、有意差をもって)効果はあるという結果が出ている。ただ、その差は、思ったほどは大きくはない点も重要で、
「一般の人が見て、うんなるほど、と理解できるほどの治療効果ではないでしょう」
「ご本人からしても、ご自分が、ずいぶん改善したなあ、と自覚できるほどの変化ではないのではないでしょうか」

ということで、実際の治療現場では、どうも大きな期待が寄せられたほどの効果はなく、いまのところ劇的な回復をもたらした、というものではないようでした

▼ 新薬も万能ではない

さらに驚くべきことには、実際の現場の臨床からは、この新薬、認知症を治せるわけではない、という医師の説明が目立ってきています。
風邪のように治療をすれば治る、といったものではなく、認知症の新薬はアミロイドβを除去する効果はあるものの、認知症の症状の改善となると、劇的に元に戻るというわけではないというのがおおよその専門家の説明のようです。

認知症の専門家(下の岩坪教授の解説)によると、この新薬、たしかにアミロイドβの除去はできるが、すでに神経回路の機能が失われているところ、あるいは復元できない段階まで進んでいる部分では、機能の回復は難しい、救える神経細胞が一定以下になると効果も薄くなる、ということでした。進行を30%くらい遅らせることができる、という話で、認知症を治すという感じはなかったのが驚きでした。

分かり易い解説動画
○東京大学大学院 岩坪威教授の解説(認知症の権威)2024年10月
『アルツハイマー新薬「レカネマブ」「ドナネマブ」とは?効果・費用・投与条件を徹底解説~認知症治療の新時代【Social Shift】 | TBS NEWS DIG』
(筆者註:治療の全体像の説明が明快、薬だけではなく総合的な対策をという)
ユーチューブ
https://www.youtube.com/watch?v=9I-erNJbTDI
○リコード法という生活習慣の改善なども含めて治療を考える医師の解説2026年2月
『レカネマブ・ドナネマブ 誰のための認知症新薬?【医師が本音で解説】効果と副作用』
(筆者註:新薬の効果の説明が客観的で正確、リコード法は治療のひとつの考え方)
ユーチューブ
https://www.youtube.com/watch?v=ILpoxkTm7Cc
○クリニックの医師で実際の症例を診ている実感を語っている2025年11月
『5人に1人が認知症!最新点滴治療レケンビとケサンラの違いと効果【天王寺だい脳神経外科】』
(筆者註:治療の現場の実感として初期の認知症の人には効果が出ているという説明)
https://www.youtube.com/watch?v=z8Sq699F2ss

▼ 臨床の現場でも「治す」というより「支える」

特効薬、夢の新薬もこのような状況で、新薬が目指したアミロイドβの除去には一定の効果があるものの、その除去が症状の改善、回復に直結するわけではなく、進行を遅らせていることの確認までしかできていないのが実情です。(これも画期的ですが!)
大会の講演の中である医師が「35年、医師として認知症の人たちを診てきて、治そう治そうとしてきたけれど、だれ一人として治せなかった」としみじみ語っていました。

いま、認知症は「治す」から「共に暮らし支える」という流れが主流となっていて、認知症をとりまく環境は大きな転換期を迎えていることを実感した次第です。

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