住宅ローンで総返済額を少なくするには?知っておきたい金利のしくみ【2017 第3回】

【2017年 第3回】住宅ローンで総返済額を少なくするには?知っておきたい金利のしくみ 元銀行員が教える、知って得する「銀行あるある」

松原 季恵  ⇒プロフィール

 

このコラムでは銀行員時代に学んだ、銀行にありがちで陥りがちな「銀行あるある」の教訓を連載でお伝えします。第3回は住宅ローンでの銀行あるあるです。家をローンで買う場合、必ず関わってくるのが銀行。住宅ローンは金利ひとつで総返済額が大きく変わります。それにも関わらず案内されたままにローンを組んでそのままという人も少なくないのでは?銀行でお客様の陥りやすい事例を交えながら、住宅ローンの金利で気を付けるポイントをお伝えします。

 

(※当コラムで使われているA銀行、B銀行の住宅ローン金利は全て平成29年3月6日現在です。)

 

私が銀行で住宅ローンを受け付けていた頃、ほとんどの方が「固定金利10年1.2%」で申し込みをされていました。住宅ローンの申込用紙はたくさんの記入項目がありますが、資産状況は真剣に書かれる一方で、金利の欄はさほど時間を要していないようでした。迷う人のなかには「他の人はどれにしていますか」と質問されることもあり、右へ倣えで決めてしまう人もいます。確かに金利は契約前まで変更ができますので、申し込み時点で確定しなくても良いのですが、その後変更する人はほとんどいませんでした。

金利はローンの総返済額に大きく影響をします。そのしくみを理解せずに契約をしてしまうと、想定外の利息を支払うことになってしまうことがあります。

住宅ローンの総返済額はいくら?返済のしくみ

例えば、期間35年で3,000万円を借りたいとします。あるメガバンク(以後A銀行とする)で取扱うフラット35(手数料定額型、1.24%)の場合、総返済額は約3,700万円になります。一方、同じ銀行で取扱う固定35年(全期間固定プラン)の金利は審査によりますが1.11%で、総返済額が約3,620万円と少なくなります。金利が低い時代とはいえ、利息に数百万円支払い、わずかな金利差でも総返済額に数十万の差が出ます。

住宅ローンは「金利」「借入額」「返済期間」のたった3つの要素で返済額が決まり、金利が低く、借入額が少なく、返済期間が短いほど総返済額が少なくなります。毎月の返済額は簡単にいうとローン残高×金利(月換算)で計算されるので、ローン残高がまだ多い返済当初は利息をたくさん支払い、徐々に減っていきます。

なかでも、住宅ローンで取扱いの多い「元利均等返済(※用語)」という返済方法は返済期間中の利息と元金の合計が変わらないので、以下のイメージ図のようになります。

 

 

 

 

金利は低いに越したことはありません。そしてイメージ図からもわかるように、ローン残高が多く残っているピンクの「利息部分」が大きくなりやすい返済当初に金利が低いと、なお利息を減らす効果が大きいと言えます。

(※用語)毎月決まった金額を返済する方法。返済額に占める利息部分と元金部分の割合が調整される。これに対して「元金均等返済」という返済方法もあり、こちらは毎月決まった元金を返済しそれに応じた利息を支払うので、返済当初は月々の返済額が大きく、徐々に小さくなっていく。

金利の種類と注意すべきポイント

住宅ローンの金利は大きく以下の3種類です。

①変動金利型(金利が6カ月ごとに見直され、返済額は5年に1度見直される)

②固定期間選択型(借入期間のうち一定期間のみ金利が一定で、その後再選択)

③全期間固定金利型(全借入期間で金利が一定)

契約当初の金利が低いのは、基本的に①変動金利型②固定期間選択型③全期間固定金利型の順になります。そのため、購入を検討している不動産会社から出される返済シミュレーションは最も金利が低い①変動金利型で出されることがあります。その場合、先ほどの事例【期間35年で3,000万円】の借り入れをA銀行の変動金利0.625%(審査による)だと総返済額は約3,340万円となり、グンと減ります。

しかし、変動金利型は借入後に金利がどのように推移するかは分かりません。「仮に借入時の金利がずっと続いた場合」という補足説明があるとは思いますが、返済額を見ると「これならいけそう」と考えてしまうのではないでしょうか。

金利を選ぶときに注意したいのは、借り入れた後にどのように金利が変化するか

まず、新規で借入した場合の金利は各銀行で定めている「(主に契約時の)基準金利」から一定の「優遇金利」を差し引いたものであると知っておきましょう。そのため、基準金利は他の銀行と比較してどうか、優遇金利が借入後どのように設定されているかが重要です。

例えば②固定金利選択型の場合は一定期間を過ぎると、その時の金利を基準に金利を見直します。

そこでA銀行と、異なるメガバンク(B銀行とする)の「固定10年」で11年目以降も同じ固定10年を選んだ場合の基準金利と優遇金利について比較してみましょう。

 

 

 

A銀行において「固定10年」の金利を選ぶと、優遇後の金利は0.85%です。同行の場合、固定期間10年が過ぎた後も同じ金利優遇幅が認められているので、もし基準金利が変わらないのであれば、11年目以降もA銀行では同じ金利0.85%で続けられることになります。

一方、B銀行では当初大きな金利優遇をし、固定期間が終了後の金利優遇幅が小さくなる金利選択ができます。その場合、固定10年の基準金利は3.0%ですが、当初の優遇金利は2.2%のため、当初10年間は0.8%で契約できます。しかし、10年経過後の金利優遇は1.4%になるため基準金利が変わらなくても金利は1.6%まで増えてしまいます。

銀行で提示される住宅ローン金利のチラシは、当月の優遇された後の金利が目立つように書かれています。そのため、つい現時点で最も低い金利を選択しがちですが、大事なのはその後の金利。チラシに小さく書かれた基準金利や優遇金利もチェックしましょう。

返済のシミュレーションを作り、長い目で確認を

銀行では返済のシミュレーションをつくることができます。金利の選択によりどのように推移するかを確認しやすくなるので、さまざまなパターンで作ってもらいましょう。ただ、審査の申し込みをしている時は、それだけで時間を要してしまうので、じっくり考える時間がありません。なかには「行員さんが忙しそうなのに、時間を使って申し訳ない」なんて考えるお客様もいらっしゃいます。当然そのようなことは考えなくても良いのですが、時間が無かったり気兼ねしてしまったりするのであれば、日を改めてはどうでしょうか。

金利は契約前まで変更ができます。申し込みの段階ではある程度柔軟に選択し、その後銀行に相談したり、出してもらったシミュレーションを自宅で眺めたりして、金利を選ぶのも一案です。

住宅ローンを借りるとその銀行と長く付き合うことになります。金利も銀行も、長い目で選ぶことが大事ですね。

※当コラムでは金利について分かりやすく説明するために「その他の諸費用」について考慮していません。ローンを決める際は金利による総返済額と共に諸費用を含めた比較をすることをお勧めします。

 

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