岡本英夫のFPウオッチャーだより 第25回 「貯蓄から投資へ」の40年②【2024年4月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第25回目です。

岡本英夫プロフィール

企業年金危機と確定拠出年金の創設


確定拠出年金は「貯蓄から投資へ」の政府の方針が決定した2001年10月に企業型が、翌02年1月に個人型がスタートした。
企業型は従来の企業年金である厚生年金基金、税制適格退職年金の運用悪化が企業の負担となっていたことから、その対応策として米国の401kプランをモデルに創設されたものである。

また、個人型は国民年金の第1号被保険者と企業年金を持たない企業の従業員向けの制度で、当初から拠出時、運用時、受給時の非課税メリットは強調されていたが、それほどの期待感はなく、企業型確定拠出年金の“おまけ”といった感じであった。
その後、2017年1月から企業年金のある会社員や公務員、専業主婦(夫)にも加入資格が与えられた。

「貯蓄から投資へ」の観点からは、確定拠出型年金は元本確保型の銀行預金や生損保商品および投資商品である投資信託の中から契約者が購入商品を選択するが、メニューに株式投資信託が加わったことから、加入者に対する投資教育が求められ、DCアドバイザーやDCプランナーなどの資格が生まれ、FPの多くがこれらの資格を取得した。

特定口座と軽減税率がバックアップ


株式投資信託や株式に対する税制は、02年末までは申告分離課税と源泉分離課税のいずれかを選択する方式だったが、03年1月からは申告分離課税に一本化された。
その際、この改正は投資家に負担を強いることになるとして急遽導入されたのが「特定口座制度」である。
同時に“タンス株券“を特定口座に預け入れる制度も創設された。

特定口座には、源泉徴収あり口座と源泉徴収なし口座があり、証券会社等が所得税や住民税を源泉徴収したうえで納付を代行してくれるのが源泉徴収あり口座で、投資家に代わって証券会社が税金を納めてくれるため、自分で確定申告手続きをする必要がないのが特徴である。
確定申告をしたい場合は、行ってもよい。

源泉徴収なし口座(簡易申告口座)は、特定口座において譲渡益があれば確定申告が必要である。
ただし証券会社等から年間取引報告書が送られてくるので、簡易な申告が可能になる。
なお、一般口座の譲渡損益については「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算報告書」を作成し添付する必要がある。

そして同時に導入されたのが、株式配当、譲渡益に対する軽減税率である。
本則は20%となったが、所得税7%、住民税3%の軽減税率が03年1月から適用された(この軽減税率はNISA挿入の2014年まで続く)。
多くの投資家は源泉徴収ありの特定口座を開設、軽減税率の適用もあって、「貯蓄から投資へ」の流れに寄与するはずであった。

ネット証券の台頭


「貯蓄から投資へ」の流れを加速させたもののひとつにネット証券会社の台頭がある。
いわゆるオンライントレードは1998年に松井証券が開始し大手・準大手証券が追随したが、現在の楽天証券、マネックス証券、SBI証券などのネット専業証券会社が次々と参入した。

オンライントレードが普及したことでパソコンやスマホでのデイトレードも可能になった。
筆者は、01年に大手証券会社でネット取引を開始したが、その後、ネット専業証券に口座を開設した。
売買手数料も安く系列のネット銀行との資金移動も可能になり、ポイントサービスも受けられる。NISA口座もこちらで開設している。

軽減税率の廃止とNISA導入


NISA(小額投資非課税制度 日本版ISA)は、上場株式等の譲渡益、配当に対する軽減税率10%が 2011 年末に終了し本則の20%になることの緩和措置として2010 年度税制改正により2012年1月からの導入が決定された。
その後軽減税率は 2013 年末まで延長されることになり、日本版 ISA も2014 年 1 月 1 日から開始されることとなった。

筆者は14年1月、NISA口座を開設、16年には前年に生まれた孫のためにジュニアNISA資金を用意し、19年からはロールオーバーにも対処した(ロールオーバーは23年で終了)。
なお、18年から始まったつみたてNISAは現役世代向けの制度ととらえ、これまで利用することはなかった。

今年からの新NISAの成長投資枠(年間240万円)には、旧NISAの銘柄を売却して移動し、新規投資も行った。
つみたて投資枠(月10万円、年間120万円)については2つの投資信託で対応している。
25年以降も旧NISAと特定口座からの資金移動を考えている。
今年からの恒久化された新NISAは「貯蓄から投資へ」の切り札と言える。

失われた30年と「貯蓄から投資へ」への40年


1989年に38,915円を付けた日経平均株価は今年2月22日、39,098円を付け35年ぶりに新高値となった。
「貯蓄から投資へ」のスローガンが生まれた2001年から数えて23年の月日を費やした。
途中、リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などがあったが、マーケットに居続けていれば、現状ではそれなりの成果が得られているはずだ。

投資をはじめて40年近くになるが、FPを知ったのも40年前である。
その40年を思い返しつつ昭和から平成、そして令和への「貯蓄から投資へ」の流れを考えてみた。
前回の記述と合わせて参考にしていただければ幸いである。

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