岡本英夫のFPウオッチャーだより 第19回 FP養成講座の変遷~ ①黎明期 【2023年10月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第19回目です。

岡本英夫プロフィール

「ライフコンサルタント養成講座」(近代セールス社)

1980年4月、金融専門出版社である近代セールス社は、金融機関行職員向けに通信教育「ライフコンサルタント養成講座」を開講した。
ファイナンシャル・プランナーという言葉こそ使われていないが、これがわが国初のFP養成講座と言ってよい。

執筆は協和銀行(現りそな銀行)経営相談所のスタッフを中心におこなわれた。

当時、都市銀行の経営相談所は取引先企業向けに経営全般の相談に応じていた。
中小企業診断士や社会保険労務士、税理士、宅地建物取引主任者などのスタッフを抱えていたが、どの資格者も銀行業務の傍ら公的資格を取得、企業経営者だけでなく従業員の福利厚生、税金、相続などのアドバイスを行っていた。

そのスタッフの一人から近代セールス社の担当者に「ライフコンサルタント養成講座」のアイデアが持ち込まれたのである。

時あたかも団塊の世代が住宅を取得する年代に達し、住宅ローンの頭金づくりと借入れ、保険加入、子どもの教育費、老後の生活資金作りといったニーズが顕著になり、個人からの相談が多くなっていた。

住宅取得がいい例だが、頭金づくりのための金融商品知識、ローン借入れのための金利や返済方法、住宅ローン控除、買い替える場合の譲渡所得税など、金融、保険、税金、不動産といった幅広い知識がなければ相談に対応できない。

この講座は人生の三大出費に備えるための必要知識を学ぼうというものであったが、採用する金融機関は少なかった。

「ファイナンシャル・プランナー養成ゼミナール」(ダイヤモンド社)

1985年10月、ダイヤモンド社は、井畑敏氏が代表をつとめるマネー・マネジメント・インスティチュートをはじめセキュリーティ・パシフィック、住友信託銀行、大正海上火災、日興証券、日本生命と共同出資、資本金1億円のダイヤモンド・ファイナンシャル・プランナーズを設立、FPの事業化に乗り出した。

そして、1986年1月17日から4月26日までの12回にわたり「ファイナンシャル・プランナー養成ゼミナール」を開講する。

このゼミナールはその後も開催されたが、当時の関係者と講師陣、修了生が中心となって、87年11月、日本FP協会が組織されることになったのである。

全12回のカリキュラムは、①FP入門、②FPのための税務知識、③FPのための経済環境・情報のとらえ方、④緒特性金融商品、⑤投資型商品(株、金商品)、⑥債券・海外投資、⑦不動産投資、⑧生命保険・損害保険とリスクマネジメント、⑨老後資金の形成と相続対策、⑩個人ローンと法人の資金運用・調達、⑪・⑫FP実習というものであった。

「第1回米国FP事情視察団」の派遣(ダイヤモンド・ファイナンシャル・プランナーズ、近代セールス社)

1986年10月、ダイヤモンド・ファイナンシャル・プランナーズは「米国FP事情視察団」を派遣する(同行講師・三原淳雄、井畑敏氏)。
同じ時期、近代セールス社・近代FP協会も同様の視察団を派遣した(同行講師・川村雄介氏)。

両視察団はIAFPの世界大会が開かれていたシカゴ・ヒルトンホテルで鉢合わせすることになる。

ダイヤモンド・ファイナンシャル・プランナーズが世界大会への参加に重きを置いていたのに対し、近代セールス社は銀行、証券、保険会社のFP導入状況視察に時間を費やしていたが、両視察団に参加したメンバーは、多くのファイナンシャル・プランナーとそのあり方に触れ、その後のわが国でのFP展開に寄与することになる。

金融機関向け「FP養成講座」の開講(近代セールス社)

近代セールス社は86年12月、金融機関向けに「米国FP視察報告セミナー」を開催。
これをきっかけに金融機関向けの「FP養成講座」の開発に乗り出す。

通信教育講座「ファイナンシャル・プランナー養成講座」(5か月コース、定価30,000円)は87年4月から開講、全教材が揃った9月には、数千名の受講者を獲得した。

ファイナンシャル・プランナーを養成する通信講座はダイヤモンド・ファイナンシャルプランナーズでも開講していたが、講義ビデオ付きで30万円を超えるものであった。

販売方法も、近代セールス社が金融機関の研修セクションに斡旋を依頼する方法なのに対し、ダイヤモンド・ファイナンシャル・プランナーズは電話セールスに依存していた。

また、近代セールス社は金融機関の要望にこたえる形で通信教育に数回のスクーリングをセットしたり、通信教育とは別に、10数日間の集合研修による「FP養成研修会」を開催するなどの対応もおこなった。

さらには生命保険会社やJA系統金融機関向けに独自の通信教育教材の制作も請け負った。

金財FPカレッジ(金融財政事情研究会)

1988年5月、社団法人金融財政事情研究会・金財FPセンターが発足した。

代表委員に野村総合研究所理事長の徳田博美などをそろえ、5月23日から「金財FPカレッジ」を開講、35名の参加者で16週間に及ぶ講習を開始した。
修了者は、FP認定試験を受験、合格者は金財FP(労働省認定金融技能審査1級)に認定されるというもの。

このときから、金融財政事情研究会・金財FPセンターは年2回「金財FPカレッジ」を開講、さらにはその後「信金FPカレッジ」を開講することになる。
どちらも、銀行、信用金庫の本部から派遣される形で本格的な研修カリキュラムを受講し、修了後は自金融機関でFPとして自金融機関で活躍することを目的としていた。

金融機関のFP養成は、近代セールス社、金融財政事情研究会が先行したが、その後、経済法令研究会、銀行研修社もFP関連の通信教育講座を開講し、企業内研修にも乗り出すが、それは1989(平成元)年以降のことである。

(つづく)

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