池田龍也 の 経済ニュースよもやま話 第8回 経済ニュース10本の柱 「貿易」

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

経済ニュースを見るための10本の柱

シリーズ企画、経済ニュースの取扱説明書。経済ニュースの10本の柱は以下の通りです。(私見もふくめています)

① GDP
② 金融政策
③ 日本の財政
④ 景気動向を見る主な経済指標
⑤ マーケットの動き
⑥ 消費動向
⑦ 貿易
⑧ 企業活動
⑨ 世界経済のポイント
⑩ 高齢化社会の課題と諸問題

今回のテーマは、「貿易」についてです。

池田龍也プロフィール

貿易が生活を支えている

私たちの生活は実は、世界各国との貿易で成り立っています。
農水産物から工業製品、はてはさまざまなサービスまで、貿易を通じて輸出入しながら、国民の生活は支えられています。
ちょっと古いですが、1970年代の石油ショックのころ、日本は輸入原油が断たれると経済が立ちゆかなくなるということで「油断」なんていうタイトルの本も出版されました。

コロナ騒動の際には、半導体の生産に支障が出たことで、世界の主要な自動車メーカーの工場の操業に影響が出たのも、ついこの間のことです。
ウクライナ情勢が緊迫したとたん需給バランスが崩れて小麦が高騰したのも記憶に新しいところです。
世界中をつないでいるモノの流れ、貿易のネットワークがうまく動かないと、即座に経済活動が混乱することを如実に物語っています。

かつて日米貿易摩擦があった

1980年代、折しもアメリカはレーガン大統領時代、経済状況はいわゆる「双子の赤字」に悩まされていました。
「双子の赤字」とは、財政赤字と貿易赤字が同時に発生する状態のことです。

この貿易赤字の背景には、日本の輸出攻勢がありました。
自動車産業や電機産業といった、当時、絶頂期を迎えていた日本の製造業はアメリカへの輸出を主軸にして我が世の春を謳歌していました。
当時、日本の自動車をアメリカの人たちが大きなハンマーでたたき壊している映像が流れていたのを覚えている方もいるかもしれません。
アメリカの自動車産業で働いていた人たちからすれば、日本車は敵だったわけです。
自分たちの働く場がなくなるかもしれないという危機感が、あのような行動につながっていたのは間違いありません。

アメリカの貿易統計の発表の日には、為替相場が大きく動くことが多く、日本の金融機関のマーケット担当者は、その発表時間前後は、夜中でも、ディーリングルームに張り付いて、固唾をのんで発表数字を見守っていたという話を聞いたことがあります。
いまは貿易統計に対する、そういう観点からの関心は少なくなりました。

日中の貿易関係は、実は蜜月時代!

日本の製造業のその後の展開、というか急速な凋落のストーリーは別稿に譲るとしまして、現在の日中関係は、政治的にぎくしゃくしているように見えますが、貿易の観点から眺めて、視点を変えると別の姿に見えてきます。

商社などで作る「日本貿易会」がまとめた資料によると、貿易から見た日中関係は以下の通りです。

輸出先を国別でみると、中国向けが19兆円で前の年より6%増加、アメリカ向けの18兆3000億円を上回って、3年連続で日本にとっての最大の輸出相手国となっています。
日本の輸出全体に占める割合は19.4%にのぼっています。

日本貿易会「日本貿易の現状 2022(Foreign Trade 2022)」
https://www.jftc.or.jp/research/pdf/ForeignTrade2023/ForeignTrade2023.pdf

一方、日本の輸入先で見た場合でも、中国が最大の輸入相手国で、中国からの輸入は前年より22%増えて24兆8000億円となっています。
日本の輸入全体に占める割合は21.0%にのぼり、いまやアメリカの2倍以上のウェイトとなっています。

日本貿易会「日本貿易の現状 2022(Foreign Trade 2022)」
https://www.jftc.or.jp/research/pdf/ForeignTrade2023/ForeignTrade2023.pdf

日本と中国の貿易関係は、日本にとって輸出の19.4%、輸入の21.0%を占める、最大の貿易相手国です。
最近、政治的にぎくしゃくすることはよくありますが、この貿易を通じた深いつながりを見れば、それぞれの国の経済が、相手国の経済にがっちりと組み込まれているので、突然、この関係が断たれれば、双方の国民生活に大きな影響を及ぼすことは容易に想像できます。
それは、双方とも望んでいないことなのではないでしょうか。

世界の港はいまや中国が席巻

この表は、世界の港のコンテナ扱い量の一覧です。国土交通省の資料ですが、貿易量の急速な拡大が、経済力をそのまま反映しているとすると、この間の、中国の経済力の成長の勢いがどれほどすさまじいのか、一目瞭然です。


国土交通省の資料より
「世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング」
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001517678.pdf

この40年の激変ぶり、ご覧いただけましたでしょうか。上位10位をみてみると、
1980年 中国の港はゼロ
2021年 中国の港7か所(香港含む)
中国の貿易が急速に活発になったことがこの表を見ても一目瞭然です。

それから取扱量です。
1980年 トップのニューヨーク  195万個
2021年 トップの上海      4703万個
取扱量でも、この40年間に、とてつもない拡大をしていることが分かります。
冷戦終了後、東西の垣根がなくなり、いわゆるグローバル経済の時代に突入、世界全体がひとつの経済圏としてつながるようになり、そこに生産国としても消費国としても中国が登場、いまやその存在感はとてつもなく大きなものになっています。

2000年の頃、香港とシンガポールが、世界一のコンテナ港の名誉をかけて、トップ争いをしていたのは、いまや遠い昔のことになりました。

また、当時、シンガポールや韓国の釜山、マレーシアのポートケラン、ドバイのジュベルアリといった港は、それぞれ地域の中核港を目指して急速に整備を進めていたのを思いだします。
長期の将来構想がしっかりとあり、具体的な整備計画をたてていたからこそ、いまも世界の主要港として生き残っているのは当然なのかもしれません。

ドバイのジュベルアリ港の担当者が「地球上の建造物で、宇宙から見えるのは中国の万里の長城とこのジュベルアリ港だけです」といっていたのは印象的でした。
その気宇壮大な発想があったからこそ、いまの発展があるのだと思います。

いまは米中貿易、摩擦を越えている?

ベルリンの壁の崩壊、ソ連の消滅によって、東西の冷戦は30年ほど前に終わりました。
東西の壁がなくなったことで「グローバル経済」という流れができ、世界がひとつの市場として、ヒトもカネもモノも、世界中を自由自在に動ける時代になりました。
そして自由貿易こそが経済発展の基礎であるという流れができてきました。

ところがいま、ご存じのように、アメリカと中国の関係が、政治面だけでなく経済面でも、ぎくしゃくしています。
米中貿易摩擦、というレベルではなく米中貿易戦争というような様相になっています。

この30年の「自由貿易」の流れが、果たしてこのまま続くのか、あるいは、ひとつの転換点に来ているのか、時代は激しく動き始めたようにも見えます。

  • コメント: 0

関連記事

  1. 子どもの教育費③知っておきたい奨学金制度【2009年 第7回】

  2. 投資指標とは何ですか?【2015年 第1回】

  3. エンディングじゃないノートだからこそ、今を大切に②~自分の「身体」に関すること【2010年 第 10 回】

  4. DINKSへのアドバイス【2013年 第2回】

  5. 隠れ家的美術館~ 貴族の家で優雅にランチを【2010年 第 1 回】

  6. S&P500でみた米国株は、S&P社の評価よりはるかに割安【2009年 第 5 回】

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。