商品先物市場の機能(1)~価格変動リスクのヘッジ~【2011年 第10回】

【2011年 第10回】 商品先物市場の機能(1)~価格変動リスクのヘッジ~ 投資コラム

三次 理加(ミツギ リカ) ⇒プロフィール

これまで説明してきたように、商品先物取引は「少ない資金を元手に大きな損益を生むことができる」という仕組みがあります。そのためか、商品先物取引について「怖い」「騙される」といったイメージを抱く方もいるようです。商品先物取引が株式など一般的な投資に比べて難解であることに加え、戦後の高度経済成長期に商品先物取引の一般大衆化が進んだ結果、商品業界の社会的不祥事が度重なるようになったことも、こういったイメージに拍車をかけることになったようです。

実は、商品先物市場には社会的な機能・役割が主に3つあります。

①価格変動リスクのヘッジ機能
②資産運用機能
③透明で公正な価格の形成・発信機能
加えて、「価格変動リスクのヘッジ機能」の補完的な機能として、「換金・金融機関機能」「実物取得機能」「在庫調整機能」の3つがあります。

今回から3回に分けて、上記6つの機能・役割について説明します。

①価格変動リスクのヘッジ機能

商品先物市場には、将来の価格変動リスクを第三者へ移転、回避する場を提供するヘッジ機能があります。「ヘッジ=hedge」には、「防御、予防する」「両方に賭ける」といった意味があります。転じて「価格変動リスクのヘッジ」とは、価格の上昇、下落にかかわらず「損益が発生しない」状況を作り出し、価格変動による損失を回避することを指します。

商品の現物価格と先物価格は、原則、連動します。また、先物価格は取引最終日には現物価格と同値に収れんします。これら値動きの特徴を利用して、現物取引で発生する損益を先物取引の損益で相殺することにより、将来の購入価格や販売価格を固定することが可能となります。ヘッジ取引には「買いヘッジ」と「売りヘッジ」があります。

○買いヘッジ

「買いヘッジ」は、将来の価格上昇リスクに備えるものです。たとえば、将来、原材料の購入を予定している時、今後の価格変動に関係なく、現在の価格に近い価格で原材料を購入したい場合や、現時点で購入すれば発生する保管コスト(金利・保管費用等)の負担を避けたい場合などに用います。(例1参照)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例1において、A社は6か月前にゴムを購入すれば必要となっていただろう倉庫費用を節約することもできています。また、第3回で説明したように、商品先物取引は証拠金で取引が可能です。そのため、購入費用全額が必要となるのは納会日(=最終取引日)が近くなってからです。つまり、購入費用のうち一部を6ヶ月間活用することもできます。

なお、例1では、6ヶ月後に先物市場の買い玉を差金決済し、別途、現物市場でゴム現物を購入しています。しかし、先物市場のポジションを差金決済せずに、現受けをすることによりゴムを購入する方法もあります。ヘッジ取引を「価格の固定化」という目的で使用する場合、先物市場における決済は「差金決済」だけではなく、場合によっては現物の受け渡しによる「受渡決済」という方法もあるのです。

○売りヘッジ

「売りヘッジ」は、価格下落リスクに備えるものです。たとえば、将来、商品の売却を予定している時、今後の価格変動に関係なく、現在の価格で商品を売却したい場合や、保有している商品の価格下落を回避したい場合などに用います。(例2参照)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


例1と2のように、ヘッジ取引を行うことにより、A社とB社はともに将来における商品価格の変動リスクを回避できたことになります。半面、同時に価格変動による利益を享受する機会をも失っています。しかし、現時点で利益を確保し、将来の損失の恐れを排除することによって経営を安定させる、ということは企業にとって非常に有益なことだといえるでしょう。

次回は、「価格変動リスクのヘッジ機能」の補完的機能について説明します。

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