池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 【第23回】~アジアにも「ホルムズ海峡」があるってご存じでしょうか~

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

【第23回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから ~~

池田龍也プロフィール

▼ ホルムズ海峡

連日、中東のホルムズ海峡がニュースになっています。これは現代の経済活動に欠かせない石油の輸送で、タンカーがこのホルムズ海峡を通らなければならないため、この海峡が自由に通航できないとなると、世界経済に多大な損害が発生するからです。

このホルムズ海峡になぞらえて、アジアにもこのホルムズ海峡のような、戦略的に重要なポイントがあると指摘する本に出会いました。

▼ アジアの「ホルムズ海峡」

『半導体最強 台湾 大国に屈しない「チェーンパワー」の秘密』      李 世暉  著

著者は台湾日本研究院 理事長
台湾日本研究院は、台湾にある日本研究のシンクタンクで、李氏は台湾の国立政治大学の教授も務めていて日本の経済安全保障、科学技術、外交を専門としている。

テクノロジー時代の半導体の製造を担っている台湾は、石油時代のホルムズ海峡に匹敵する重要拠点になっていると分析しています。

著者曰く、
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「テクノロジー時代の半導体」対「石油時代のホルムズ海峡」
「21世紀において、半導体は重要な戦略資源となっている。F-35のチップ製造プロセスでは、オランダや米国の製造装置と日本からの主要材料がすべて台湾に持ち込まれ、台湾の半導体企業がウエハー処理とパッケージング、テストを行った。半導体の製造工程を航路に例えると、この航路が通らなければならないのは台湾だけだ。」
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さらに詳しく曰く、
(引用は長めなので飛ばしていただいても)
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「米アップルのスマートフォンから米国の先進的な戦闘機に至るまで、いずれも台湾の半導体産業チェーンが製造する「チップ」が関わっている。この世界規模のチップ製造サプライチェーンは、米国のF-35戦闘機に使用されているチップから垣間見ることができる。インド太平洋地域と欧州の制空権を維持するため、米国は第5世代戦闘機F-35の導入を決定した。F-35の製造を担当する米ロッキード・マーティンは自社の航空電子システムと多目的機能を大幅に強化するため、米国カリフォルニア州のチップメーカーである米ザイリンクス(米AMD傘下) が設計したFPGA(再プログラム可能な半導体)チップの使用を選択した。ザイリンクスは受注後、直ちに台湾に生産を発注し、設計した回路図を実際に半導体ウエハーに転写する作業を進めた。
 次に、台湾のファウンドリーは日本の信越化学工業からウエハーを購入し、台湾の光洋應用材料科技のスパッタリングターゲットを使用してウエハー表面に金属膜をコーティングした。その後、東京応化工業のフォトレジストを塗布し、オランダASMLのフォトリソグラフィー装置を使用して、回路図をウエハー表面のフォトレジストに転写した。最後に、米ラムリサーチのエッチング装置を使用して、フォトレジストで保護されていない金属膜を除去、台湾芯電應用科技のフォトレジスト除去ソリューションを使用して金属膜上のフォトレジストを除去し、ウエハー処理を完成させた。
ウエハーはIC(集積回路)チップに成形された後、台湾でパッケージ化、検査された。その後、チップは米国に送られ、F-35の電子システムに搭載された。台湾製チップを搭載したF-35は将来、東アジアにおける米国の主力戦闘機となる。」
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つまり、台湾の半導体製造現場では、アメリカ、日本、オランダ、台湾の製造装置や素材、材料、さまざまなノウハウが一手に集約されて、最先端の半導体を作り出しているというわけです。台湾を通らずして最先端半導体は生まれない、という構図をF-35に使う最先端半導体を例に説明しています。まさに台湾は、現在の最先端半導体の製造、物流にとって「ホルムズ海峡」化しているというわけです

▼ 台湾のTSMCの動向

さて最近のニュースでは、このような話がありました。
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TSMCの熊本新工場、最先端品「3ナノ」に転換 AI向け需要増
2026年2月5日
半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)は5日、熊本県内の新工場で人工知能向けの半導体生産を検討すると表明。従来の計画を変更し、回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端品をつくる。世界で争奪戦となっているAI半導体の国内安定供給につながる。
TSMCは2025年秋に熊本第2工場の建設を始めた。当初は通信機器などに使われる6ナノ品の生産を予定していた。
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最近よく耳にする台湾の半導体製造企業TSMCは、日本の熊本での工場進出だけでなくアメリカにも工場を作って、まさに世界の各地に生産体制を分散しています。台湾の中でも台北周辺だけでなく、去年南部の高雄にも最新工場をつくりました。

台湾が半導体生産の重要拠点、いいかえれば台湾なくして最先端半導体が作れないという状況は、まさに「ホルムズ海峡」化していることを意味しています。台湾の半導体産業が、迂回路がないホルムズ海峡のような状況になってしまうと、いったん何かがあれば、世界経済が止まってしまいます。

TSMCは、台湾の中でも製造拠点を、分散して多拠点化し、アメリカや日本にも工場を展開していることは、そういった「ホルムズ海峡」化のリスクを誰よりも痛感しているからこそ、リスクを分散するために生産拠点も分散しているのだと、この本のおかげで、すんなり理解できるようになりました。

日本では、TSMCが日本の熊本に進出したというニュースが大きく取り上げられていましたが、TSMCの世界戦略は、もっと大きな青写真で描かれていて、そこに日本もいれてもらえた、という意味で、大きな意味があったということなんだと、この本に教えられました。

▼ 台湾のIT産業の歴史

台湾のIT産業といえば、歴史は新しく、1987年、長く続いた戒厳令の解除をきっかけに、スタートしたそうです。戒厳令の台湾を避けて海外に流れていた頭脳が、戒厳令解除とともに、ぞくぞくと台湾に戻り、アメリカのIT産業の最先端の人々との太いパイプやネットワークを足掛かりに、この40年で、台湾を世界のIT産業のトップグループの地位にまで押し上げました。

▼ TSMCの歴史

TSMCの歴史を簡単にまとめた資料をご参考に添付しておきます。



▼ TSMCの国際展開戦略

TSMCは、2020年5月14日、アメリカへの巨額の投資を決定するとともに、中国のIT大手ファーウェイへの半導体供給をストップする決定を下しました。中国との関係を清算し、アメリカとともに進むことを選びました。この日は、「TSMCがアメリカについた日」といわれています。TSMCは、その後も、アメリカへの投資をさらに拡大させています。こうした動きは、台湾がIT産業の「ホルムズ海峡」にならないようにリスクを分散し、着々と手を打っている証拠です。先行きがますます不透明になっている国際情勢ですが、TSMCのリスク分散戦略はまさに先手を打ちつつ、国際情勢がどう動こうと、これからも世界のIT市場を支えていく固い決意の表れのようにも見えます。

 

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