池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 【第17回】 ~認知症特効薬といわれた「レカネマブ」登場から1年半の真相~

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

【第17回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから ~認知症特効薬といわれた「レカネマブ」登場から1年半の真相~

池田龍也プロフィール

シニアの関心は認知症や介護にも

最近、シニアのライフプラン相談の現場では、介護や認知症のことが話題になることが多いように思います。高齢化が進む中で、元気な時のライフプランだけではなく、自分や親御さんの介護、さらには認知症の話も、個々の方々の将来設計、資金計画にも絡んで、避けて通れないテーマの一つになってきているようです。 

▼認知症の特効薬として注目を集めたあの薬はいまどうなっているのか

認知症の新しい薬が登場し日本でも承認されたというニュースが話題になったのは、2年ほど前のことでした。

~エーザイ認知症薬、正式承認~(20230925)
厚生労働省は9月25日、エーザイとアメリカのバイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を正式に承認した。進行を遅らせる効果を証明した国内初の薬となる。薬価の決定を経て、年内にも医療現場で使えるようになる見通し。

▼新薬の特徴

認知症のひとつ、アルツハイマー病は、脳内に「アミロイドベータ」という特殊なたんぱく質が蓄積することが原因といわれています。この新薬「レカネマブ」は、脳内に蓄積したこの「アミロイドベータ」を除去することで認知症を改善しようというものです。一定の効果が確認されたということで、アメリカに続いて日本でも承認された形です。

これまでの治療薬が「対症療法」だったのとは異なり、病気の原因といわれる「アミロイドベータ」そのものに働きかけることで症状の進行を抑える、あるいは症状を改善できる点が認知症の根本治療薬といわれる理由です。日本での発売は、承認からおよそ2か月後のおととし12月20日のことでした。

※筆者註・・・エーザイのホームページ( 商品名は「レケンビ」)
https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202374.html

▼それまでの認知症の薬

それまで日本で使われていた4種類の認知症の薬はいずれも、アルツハイマー型の認知症の進行を遅らせる効果はあるもの、認知症の根本的な治療薬ではない、というのが認知症ケアの現場の認識でした。

脳の中の神経伝達を邪魔している物質の働きを抑制する、つまり、分かりやすく言うと神経の伝達を良くする効果があるという薬でした。認知症によって衰えてきた神経伝達機能を、元に戻すというわけではなく、少しでも邪魔をしないようにする、というようなやり方です。たとえて言えば、細い直線道路の真ん中に柵や石ころがあって通りにくくなっている状態なのを、その柵や石を取り除いて通りやすくするというイメージでしょうか。誤解を恐れず言えば、新薬は道路そのものを修復、メンテナンスして幅も広げて通りやすくする、というような違い、といえばいいでしょうか。

新薬が出てくる前は、現在の医療では認知症は治らない病気と思われ、製薬会社が相次いで新薬の開発に失敗、あるいは開発を断念といったニュースが相次ぎ、あげくのはてに、アミロイドベータが原因という仮説に基づいた新薬開発が間違っていたのではないか、仮説自体への疑念も出てくるような状況になり、認知症のイメージはいったん発症すると治らない病気、ということになってしまっていました。

▼「レカネマブ」投与開始から1年半

画期的な新薬といわれた、この「レカネマブ」は、認知症の初期、軽度認知症の人、あるいは認知症の前段階の軽度認知障害の人を対象としています。薬の投与の前に脳内のアミロイドベータを検査で確認したあと、点滴で静脈内に投与します。2週間に1回、1年半続ける形で治療します。

体重によって投与する薬の量は違うそうですが、体重50キロの人の場合、薬代は年間約300万円で公的医療保険が適用されます。

実は、この価格、私もはじめは随分高いなあと思ったのですが、実は3割負担の方の場合、年間90万円、ひと月で換算すると、7万5000円となり、日本の健康保険の「高額療養費制度」(この制度の自己負担引き上げ案はこの春ひとまずは凍結・延期された)を使えば、さらに自己負担を減らせる場合もあり、手が届かない高額な薬という感じはないのではないでしょうか。

※筆者註・・・「高額療養費制度」については
生命保険文化センター資料をご覧ください
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/8455.html

▼1年半後の治療結果

最近、認知症の専門家の話を聞く機会がありました。新薬が実際に使われ始めて1年半がたったところなので、ちょうどいま、その治療結果の検証が始まっているんだそうです。

その専門の先生のお話をご紹介しますと・・・
認知症の検査をしてみると、新薬を投与した方には確かに効果はある。投与しない場合と比べて、明らかに(統計的に言うと、有意差をもって)効果はあるという結果が出ている。ただ、その差は、思ったほどは大きくはない点も重要で、
「一般の人が見て、うんなるほど、と理解できるほどの治療効果ではないでしょう」
「ご本人からしても、ご自分が、ずいぶん改善したなあ、と自覚できるほどの変化ではないのではないでしょうか」
ということで、認知症のご本人からは「これは認知症を治す薬という感じではないですね」という感想も聞かれたそうです。

この新薬については、登場した時、世界初の根本治療薬、夢の治療薬、というような言われ方をしていましたが、確かに世の中で初めての根本治療薬としてその持つ意味は大きいのですが、実際の治療現場の関係者からすると、どうも大きな期待が寄せられたほどの効果はなく、この1年半での結果は、いまのところ劇的な回復をもたらした、というものではないようです。期待が大きかった分、期待外れ感があるのも現実のようです。
 

でもあきらめてはいけません

その専門家の先生の弁を借りれば、「いま、病気でいえば、2人にひとりがガンになる時代、それから考えると認知症はそれほど大変な病気ではありません。認知症になったとしてもすぐに死に至るというわけでもないですし、薬だけでなく、ケアの体制、社会で支える体制を作っていくことの方がもっともっと重要です」ということでした。

さらに先生は、「個人個人の話でいえば、認知症になるリスクは、高血圧の人は2倍、糖尿病の人は3倍という研究結果もありますので、生活習慣病に気を付けて健康を保つことがまずは大切なのではないでしょうか」とのことで、シニアライフのこれからを考える時、この先生のひと言ひと言をかみしめた次第でした。

 

 

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