平野厚雄 の 実務家FPとして知っておきたい 中小企業の経営者を悩ませるよくある人事労務問題 第11回 社長必見!就業規則がないと起こりえるリスク4選

平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。

仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。

そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝えしていきます。

平野厚雄プロフィール

■就業規則とは

就業規則は「会社の憲法」ともよばれ、社内での労働環境やルールを体系的に定めた基準となります。常時10人以上の社員を使用する使用者は、労働基準法第89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。就業規則を変更する場合も同様に、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。また就業規則には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、当該事業場で定めをする場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。

【引用】厚生労働省リーフレット労基法89条・就業規則を作成しよう

■就業規則がないとおこるリスク

就業規則の重要性をきちんと理解しないまま会社を経営されている方も多いのですが、経営者が「就業規則に対して無知のままでいる状態」ということは、多くのリスクを抱えているということになります。今回はそのリスクを4つにまとめました。

①労働条件の不明確さによる不満・不安の増大

労働時間、休暇、賃金などの労働条件が文章化されていないので社員と企業間での認識の違いからトラブルが発生しやすくなります。特に、退職の取り決めや有給休暇の取り扱いについての紛争が起こりやすくなります。つまり、職場のルールや社員の行動基準が明確でないので秩序が乱れる可能性が高まります。

例えば、遅刻や無断欠勤に対する対応ができず、規律意識の低下や他の社員への悪影響が出る可能性があったり、就業規則が無いことで社員が労働条件や会社のルールを理解しづらくなり、不安や不満が募りやすくなったりしてしまいます(特に、新入社員や転職者にとっては、働く上での安心感が損なわれることにつながります)。

②労働基準監督署からの指導や処分

常時10人以上の社員を雇用する場合、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が法的に義務付けられています。この義務を怠ると、監督署から指導や罰則、罰金(30万)が課される可能性があります。また、就業規則に絶対的必要記載事項を記載していない場合も、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

③労務トラブルの防止や解決が困難になる

労務トラブルの大半が退職や解雇に関するものになりますが、ルールが明確でないと不当解雇と判断され、労働審判や訴訟などに発展するリスクが高まります。特に、この解雇をめぐるトラブルは企業にとって多大なコストと信用リスクを伴います。解雇は、会社が社員に対して行う懲戒処分の1つなのですが、就業規則が無いとこの懲戒処分ができないということになります。

例えば、社員が遅刻や無断欠勤をしたり、情報漏洩したり、職務が怠慢だったりした場合、会社は口頭注意や始末書の提出、減給や降格などをして社員の反省を促すわけですが、そもそも就業規則に懲戒処分の規定がないとこれらの処分をすることができません。就業規則が無い状態で、懲戒処分をすると、万が一、社員から「何を根拠に始末書を出せと言うんですか?」と言われたとき抵抗ができません。またそれが起因となって、結果的に不当解雇として訴えられてしまう可能性があります。

④モンスター社員に足元をすくわれる

モンスター社員は、入社前から会社の状況を観察し調べています。「就業規則が無い=トラブルを起こしやすい」と判断します。入社前に就業規則や雇用契約書等、法定書類をきちんと整備し運用しておくと、そのようなモンスター社員は、「この会社はしっかりしているな」と思い、その後のトラブルを抑止できます(もちろん、確実に無くなるとは断言できませんが、就業規則はないよりは格段にリスクは下がります)

■就業規則作成のコツ

つまり、就業規則がないと社内の規律が守れずに「無法地帯」になってしまいますので、とてもリスクが高い状態になります。したがって、私は経営者で社員が10名未満であっても、1人でも社員を雇用している経営者に対しては一刻も早く就業規則の作成をお勧めしています。

一応、就業規則は会社が一方的に作成することが可能ですが(最後は社員代表の方の意見を聞く必要がありますが、同意をえる必要はありません)、会社が一方的に作成すると、社員からすると「押し付けられた」という印象が強くなってしまう傾向になります。そのような状態になってしまうと、その後の運用がうまくいかないケースがあります。そこで、私は就業規則の内容の一部は社員も巻き込んで作成することをお勧めしています。その1つが、服務規律の項目です。服務規律は、職場の基本的なルールとなりこの服務規律を社員と一緒に作成するのです。

例えば、社員に集まってもらって「一緒に働きたくない人の特徴・一緒に働きたい人の特徴」ということでワークショップをやってもらい、そこで社員からでてきた意見を参考に服務規律を作成します。このプロセスがあると社員からすると「会社から押し付けられた就業規則」ではなく「私たちも一緒に作成した就業規則」となり当事者意識がうまれ、その後の運用がしやすくなることになります(その他、一緒に考える項目としては、休暇や表彰制度等があります)。

 人口減少で人材確保が困難になる状況で、就業規則は、単なる「会社の憲法」として、社員に一方的に押し付けるものではなく、企業文化や働きやすい環境を、社員とともに創り上げるための重要なツールとなります。

ぜひご活用ください。

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