日銀のETF購入増額の狙いと効果・副作用 【2016年 第6回】

【2016年 第6回 日銀のETF購入増額の狙いと効果・副作用】日米欧・金融政策の最新事情と展望

小松 英二(コマツ エイジ)

日銀の金融緩和は「3次元緩和」と呼ばれています。
2013年に始まった異次元金融緩和は、質(資産購入によるマネタリーベースを増やす)と量(ETF、J-REITなどのリスク性資産を購入する)の2次元で展開されましたが、新たにマイナス金利が加わったことで3次元となりました。
その3次元のひとつ「質」の追加緩和が7月の金融政策決定会合で決まりました。
上場投資信託(ETF)のETF買入れを増額するものです。
今回はその狙いと効果・副作用を取り上げます。

 

日銀は7月29日に株価指数に連動するETFの購入ペースをこれまでの年間3.3兆円から6兆円に2.7兆円増額することを発表しました。
英国のEU離脱問題や新興国経済の減速を背景に、海外経済の不透明感が高まっていることを理由としていますが、副作用の指摘も少なくありません。
以下、狙い、効果、副作用の順に見ていきます。

 

デフレに戻る心配を払拭する追加金融緩和

まず狙いですが、海外経済の不透明感に対する対処のほかに、物価の低下基調に歯止めを掛ける措置となります。

実は消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は3月以降、最新データの7月まで5カ月連続で前年比マイナスとなっています。
円高や原油安による輸入物価指数のマイナス幅拡大が影響しています。
さらにゆるやかに上昇基調にあった「エネルギーを除く消費者物価指数」も今年上期から下落基調に転じ、再びデフレに戻る心配が出てきました。
それが今回の追加金融緩和(ETFの購入拡大など)の背景にあります。

 

円高・株安といった悪い連鎖を断ち切るためのETF購入増額

効果として株式市場の安定化が挙げられます。
ETFの購入拡大は「株価対策」とも揶揄され、賛否両論が展開されています。
反対意見は後ほど副作用として見ますが、ここでは賛成意見を見ていきます。

米ドル円相場は1米ドル=100円前後にありますが、この先90円に向かって円高が進む可能性もあります。
そうなると日経225やTOPIXなどのインデックスが、下方に大きく調整される可能性もあります。
円高・株安に陥ることは、景気や企業業績に下押し圧力となり、脱デフレを目指すアベノミクスに大きなダメージとなります。
こうしたダメージを未然に防ぐことがETFの購入拡大の効果と指摘され、「真の狙い」ではないかとの見方も少なくありません。

 

安ければ購入したのにといった投資行動を歪める心配

副作用を見ていきましょう。まず、日銀のETF購入拡大が市場取引を歪める可能性があることです。
バリュー株(割安株)投資法といった手法があります。
これは株価と企業業績などから評価して、割安で放置されている株を探し、それを購入することで最終的に適正な株価に戻るところを狙います。

例えば、投資家Aは、株の割安度合いを示すPER(株価収益率)を見ながら割安株を探しているとします。
かねてより注目していた企業BのPERが、購入のタイミングと考えている株価(割安圏内)まで下がらず、購入に踏み切れません。
その銘柄(企業B)が、日銀の購入した「株価指数に連動するETF」に含まれているためです。
「もう少し安ければ購入したのに」といった投資行動に「歪み」をもたらす例ですが見逃せない論点だと思われます。

市場には、投資家にとって購入する価値がある企業もあれば、そうでない企業もあります。
多様な投資家が市場に存在するということは、「価値を見つける役割」が機能しやすいといえるでしょう。
そこに日銀が一方的に大量購入(売却しない)を続ければ、市場が果たす機能を奪うことになりかねません。
現在日銀は9兆円のETFを保有しています。そこに1年当たり6兆円が加わるとなると、3年後には単純計算で27兆円にもなります。

 

緩和「出口」で日銀の売却は煙たがられる可能性

日銀がETFを大量に購入した後には、どうやって市場に戻すかといった問題が待ち構えています。
前提としてはデフレ脱却の実現、良好な景気、(ある程度)強い経済の構築などが出来上がっていることは必要でしょう。
その時点で20兆円、30兆円といったETF残高を抱えていれば、市場に戻すための売却は大仕事になります。
売却すれば市場には下げ圧力が生じますので、日銀の売却は煙たがられる存在、景気を冷え込ませる存在となる可能性もあります。

このようにETFの購入拡大は、その「出口」において大きな課題を抱え込むことになります。
今後の「3次元緩和」の先行きにも波紋を投げ掛けるものと思われます。

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