法に泣かされる、私たち国民【2008年 第8回】

【2008年 第8回 法に泣かされる、私たち国民】年金コラム

佐藤 朋枝(サトウ トモエ)⇒ プロフィール

 

標月改ざんに法律の悪用あり

いよいよ平成21年度、社会保険庁は先の「ねんきん特別便」に追加して、標準報酬月額を記載した「ねんきん定期便」の郵送を開始する。

標準報酬月額(標月)とは、分かりやすく言うと月の給与に相当する金額のことであり、厚生年金の保険料や年金支給額を計算する時の基となる。

国は、社会保険事務所がこの標月の改ざんを組織ぐるみで行っていた事実を認めた。
そして改ざんの疑いがないか、各人に確認してもらうために、「ねんきん定期便」の送付を行うことになったのだ。

事業所が経営不振などを理由に、厚生年金の保険料を滞納していた場合、社会保険事務所が関与するかたちで、標月を事実に反して引き下げたのが改ざんの実態である。
こうすることで事業所の滞納金は減り、社会保険事務所の徴収率は増えるのだから、両者の利害は一致する。

しかし被害を被るのは、不当に標月を減らされた従業員などだ。
給与の実態に則した年金保険料を天引きされたにもかかわらず、改ざんによって将来の年金額が少なくなってしまうからだ。

社会保険事務所はすでに、組織ぐるみの改ざんが行われた可能性がある6万9,000件を対象に、戸別訪問をして事実確認を行っている。
この6万9,000件は、次の3条件に合致する記録としてコンピューターが抽出したケースだ。

その3条件とは、
①標月の引き下げ処理と同時もしくは翌日に、資格喪失処理が行われている
②標月が5等級以上、遡及して引き下げられている
③6ヵ月以上、遡及して記録訂正されている
である。

条件①の処理は、厚生年金保険法第83条第2項の適用を逃れるために行われた。
この第2項には、事業所が全喪(厚生年金から脱退すること)していない場合、標月を遡及して引き下げることによって生じた過払い分は、翌月以降に支払うべき保険料(6ヵ月以内に限る)に充当するという内容が定められている。

しかし、事業所が全喪している場合、翌月以降の保険料支払いが生じないため、第2項の適用はなくなる。
こうして社会保険事務所は、標月の引き下げで生じた過払い分を滞納月に充て、徴収率を増やしていた。
巧みに法律を潜り抜けた、その手法には驚き呆れるばかりである。

 

宙に浮いていた年金に、遅延利息は支払われない!

総務省の第三者委員会で、申立のあった年金記録の調査をしていると、基礎年金番号に統合されていない手帳番号だけでなく、社会保険事務所の被保険者名簿に記載があるのにコンピューターに入力されていない記録を発見することがある。

この宙に浮いていた年金記録の持ち主が見つかれば、本人に5年時効を超えた分も年金が支給されることになるが、支払いが遅れた分の遅延利息の支給はない。
本人に全く非がなく社会保険庁に責任があっても遅延利息が支払われないのは、法律にその規定がないからだ。

その一方で、国民年金保険料を滞納した場合、被保険者は年14.6%の延滞金を課されている。

すでに5年時効を超えた分の年金支払い額は、400億円を超えていると言われる。
さらに遅延利息を支払うとなると、国が支払うべき年金額が一体いくらになるのだろうか、またそんな財源はどこにあるのだろうか。
法律が隙間だらけで修繕が必要なのは事実、だが現実が追いつかない、そういう実感だ。

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