マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。
目次
【第22回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから ~中国企業の躍進、筆者が垣間見たこの25年~
池田龍也⇒プロフィール

▼ 日本の家電メーカー、テレビ事業に激震
ソニー、テレビ事業分離へ 中国TCLとの合弁会社に承継
2026年01月20日
ソニーは20日、テレビ事業を切り離し、中国電機大手TCLとの合弁会社に承継すると発表、基本合意書を締結。ソニーのブランド力や、TCLのコスト競争力などそれぞれの強みを活かし、テレビ事業強化につなげる。分離後も「ブラビア」「ソニー」といったブランド名は継続する。
ぎすぎすした日中関係ばかりがとかくニュースになりがちですが、企業レベルではこういった動きもあるんだなあ、とびっくりしました。
TCLという企業名をはじめて聞いたのは、いまから四半世紀前、2000年前後のことでした。今とは違って、当時は中国がようやく経済力をつけ始めた頃で、「世界の工場」といわれ始めたりしていましたが、まだまだ中国企業や中国ブランドの製品が世界にどっと進出している、といった時代にはなっていませんでした。
当時、筆者は東南アジアで経済ニュースを扱っていました。1997年のアジア経済危機の直後で、東南アジア諸国は復活を誓って経済再建に取り組んでいる最中でした。そこに中国が徐々に存在感を示し始めた時代でした。
中国企業の動きを追ってみようと取材を進めていると、TCLという中国企業がベトナムに進出して工場を稼働させているという話が飛び込んできました。さっそくベトナムへ。当時のベトナムは、東南アジアでは先頭集団のシンガポール、マレーシア、それにタイに続いて、これから経済成長の時代を迎えようという時期でした。ベトナム観光がちょっとしたブームになり、日本人観光客が続々と行き始めたのもこの頃からだったと思います。東南アジアが「戦場から市場へ」といわれるような変化が起きていました。
TCLのテレビ工場はベトナム南部ホーチミン市にありました。その工場はまだまだ小さいもので、たしかゼロから工場を建てて進出するのではなく、すでにあった町工場を買い受けて稼働し始めた、というような説明だったと思います。
当時のベトナム市場は、ソニーはじめ日本の家電メーカーの製品が街にあふれていて、TCLの存在感は、まだまだ小さく、これから、という感じでした。町にはバイクがひしめくように走り、ホンダのカブが大人気と聞きました。「HONGDA」というバイクを見かけたときには笑ってしまいました。ひと文字多いので「ホングダ」になってしまいます。もちろんこれは、ホンダの偽物です。
案内をしてくれた、TCLの担当者は「TCLとは、Today China Lionの頭文字をとったものだ」とにこにこしながら説明してくれました。訳せば「いまや中国は獅子になった」なんと気宇壮大なネーミングなんだろうと思いました。ジョークだと思っていたら、本当に社名の由来はそういうことらしいのでまたびっくり。
ミラノ・コルティナオリンピックでは選手のインタビューの後ろのパネルにTCLの3文字がはっきり見えていました。TCLは今回の冬季オリンピックのスポンサーだったんですね。
日本の家電量販店に行けば、いまや当たり前のようにTCLのテレビが置いてあります。置いてあるテレビのパンフレットには五輪マークがしっかりと入っていました。先日、別の家具雑貨の大型店に行ったら、ここでもTCLの大型テレビを展示販売していたので、そうかあ、この20年余りでTCLはここまで成長してきたのか、とちょっと感慨深いものがありました。
家電量販店の方に伺ったら「TCLは、価格帯は手ごろな感じですが、やはり、日本メーカーのものと比べると、画質、コントラスト、明暗など、品質は日本メーカーのものが優れています。ただ価格も含めて考えると、選択肢のひとつにはなっていると思います」ということでした。

▼ 家電メーカーには2種類
家電メーカーは、総合電機メーカーと家電専業メーカーにわけられます。日立、東芝、三菱の3社は、総合電機メーカーと呼ばれます。家電もつくっていますが、家電以外の製品もつくっているのでそう呼ばれます。
ソニーをはじめ、パナソニック、シャープ、三洋電機、ビクター、パイオニアなどは家電専業メーカーということになります。
(といってもこれは筆者の時代のメーカー名で、いまや外資との関係を強化したり、合併などで、紆余曲折を経て、大きく姿を変えています)
ビクターやパイオニアは音響機器メーカーという感じ、NECや富士通は、通信、ITメーカーとして、別枠になりますでしょうか。
総合電機メーカーと家電専業メーカーとは何が違うのかといいますと、総合電機メーカーは、重電といって、発電関連機器(火力、水力、原子力も)、送配電、変電所、産業用機械(工場などで使う大型の機器など)、エレベーター、鉄道関連といった、社会インフラを支えているようなものもつくっています。そのため、収益構造が比較的しっかりしているといわれます。
一方、家電専業メーカーは、つくっている製品が一般消費者向けなので、消費動向の変化に影響を受けやすく、欧米、アジアのメーカーと激しい競争にもさらされているため、経営のかじ取りを一歩間違うと、経営にも大きく響きます。今回のソニーとTCLの話は、まさにそういう時代の変化を反映したものといえると思います。
▼ ソニーはいまや家電メーカーではない
かつて世界を席巻した日本の家電専業メーカーは、国際競争が激しくなる中で、この四半世紀の間に大きく姿を変えてきました。今回取り上げたソニーの決断も、そうした流れの中にあります。ソニーの事業報告を見ると下のようになっています。

ソニーの事業報告より
https://p.sokai.jp/6758/report/
テレビやオーディオ、カメラ、スマホなどいわゆる家電部門は、「エンターテインメント・テクノロジー&サービス」でくくられていて、売り上げ全体の18.2%、5分の1以下になっています。いまや主力は、ゲーム&ネットワークサービス、その他に音楽、映画、金融、センサーなどの先端機器といった分野も一定の売り上げをあげている、といった具合です。
この10年の変化を見ると下のようになります。ゲーム、音楽、映画で売り上げが半分以上を占めるようになっていることが分かります。

ソニー CORPORATE REPORT 2024 統合報告書 より
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/library/corporatereport/CorporateReport2024/read/
この報告書の中で、ソニーは以下のように説明しています。
「ソニーは近年、エンタテインメント事業の成長を⼤きく加速させてきました。特に、吉田がCEOに就任した2018年度以降は、Purposeのキーワードである「感動」を軸に、ゲーム、⾳楽、映画など人の心を動かすエンタテインメント事業の強化を加速してきました。2012年度には、エンタテインメント3事業(ゲーム、⾳楽、映画)の売上高構成比は26%でしたが、2023年度には55%にまで伸長しています(図表 1)。」
ソニーはもはや「モノづくり企業」から「感動づくり企業」へと様変わりしたというわけです。ハードからソフトへ、といってもいいかもしれません。
10年余り前、ソニーは、テレビやスマートフォンの事業が不振で、業績悪化が懸念されていました。韓国や中国企業との競争に苦しんでいた時代、ソニーも昔日の輝きはなくなってしまったのか、と思われた時代もありました。その後、ソニーは、パソコン事業VAIOの売却など事業の見直し、人員削減、福利厚生の見直しなどによる経費削減、等々、本気の構造改革を進め、モノづくりの激しい国際競争から脱け出すため、ソニーならではの価値を生み出しそれを提供していく方向にカジを切り、事業の多角化を進めて今に至っています。
今回のTCLとの話も、ソニーが取り組んできた、「脱家電メーカー」という流れをさらに加速するものといっていいと思います。

この記事へのコメントはありません。