業種別時価総額から見た株価の変動【2013年 第7回】

【2013年 第7回 業種別時価総額から見た株価の変動 】投資に必要な経済の知識

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

昨年来の株価上昇局面、業種別時価総額からその変動要素を見てみます。株価上昇が特定業種に限られてのことなのか、全業種にわたってのことなのか?特定業種で有ればどの業種なのか?見方を少し変えることによって、経済の状況を推測することが出来ます。

業種別時価総額からその変動要素を見る

グラフ1は東京証券取引所1部の2013年6月末現在での業種別時価総額の割合を表したものです。最大のウエイトを占めているのは自動車を中心とした輸送用機器の13%、次に電気機器、情報・通信業が続いています。

次に、全業種の時価総額を2013年6月末と2012年6月末とを比較してみましょう(グラフ2)。

 

2012年6月からの1年間は、11月からの株価の急騰場面を含んでいます。実は全ての業種にわたり時価総額が上昇しています。業種ごとに上昇率のバラつきは有りますが、全業種が上昇するというのは、異例と言えるかもしれません。昨年来の株価急騰がいかに強いものであったのかが推測できます。

 

上位業種の伸び率を、もう少し詳しく見てみましょう。グラフから判断する限りにおいて目を引くのは輸送用機器の上昇です。株価上昇と同時に進んだ円安が、特に自動車産業に追い風になったことは否めません。対照的に電気機器の上昇率の低さ、これは家電大手3社、パナソニック、ソニー、シャープの経営不振が足を引っ張っている現れでしょう。

 

このグラフだけでは下位業種の変化が解りづらいと思われますので、上昇率だけを表したグラフ3をご覧ください。

 

上昇率という観点で、とびぬけて高いのは空運業ですが、これは日本航空の再上場という特殊要因が有りますので割り引いて考える必要があります。

 

空運業を除いたトップ3は、証券・先物取引業、その他金融業、不動産業です。不動産業を含めて、いずれも金融に関係の深い業種。日銀の金融緩和期待でのマネーの増大により恩恵を被る業種が上位に並びます。

 

上昇率というくくりでは、円安による外需相場より、マネー増大による金融相場の方が上昇率が高い、といえたかもしれません。もっともこれは、今回に限らず株価上昇局面では一般的に言えることでしょうが。

 

いうならば、今回の株価上昇は、アベノミクスの第1の矢、緩和的な金融政策によるところが大きいのでしょう。ただ金融関連の株価上昇はいつまでも続かないでしょう。むしろこれらの株価が亢進するようでは、バブルの危険性が高くなります。これが第3の矢、成長戦略にうまく引き継がれれば景気の本格的な回復により、堅調な株価水準となるでしょう。

 

しかし、成長戦略がうまく機能しなければ、長期金利の上昇と相まって再び株価が下落する可能性も無いとは言えません。2014年4月に予定されている消費税の引き上げ、これは景気にとりマイナス要因ですが、かと言って引き上げを延期すれば、長期金利が急騰し景気に更なる悪影響を及ぼすことも考えられます。

 

現状は、金融緩和・円安という下駄をはいている状態です。特に金融緩和という下駄はいずれ外れることになります。このような中でも持続的な成長を確保するためには、牽引していく業種が必要になります。現状で期待される産業はバイオ、エネルギー、素材、環境、情報、インフラ等が考えられます。

しかし例えばバイオひとつとっても関連する業種は、化学、医薬品、水産・農林業、食料品と多岐にわたり、さらにこれら以外の業種からの参入も考えられますので、現状の東京証券取引所の事業分類では律しきれないところもあります。

 

昨年来の株価上昇はバブルの懸念が無いとは言い切れませんが、バブルの要素が無いとした場合、全業種が上昇しているという事は、決して悪い状況ではないと思います。ただこれが持続的な成長に結びつくかどうか、これはまだまだ未知数なところが有りますが。

 

*こちらでご紹介した図表は全て、東京証券取引所の統計資料「株式時価総額」を基に、執筆者が作成したものです。

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