平野厚雄 の 実務家FPとして知っておきたい 中小企業の経営者を悩ませるよくある人事労務問題 第3回 社員に有給休暇の理由を聞くのはNG!

平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。

仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。

そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝ええしておきます。

平野厚雄プロフィール

 

 有給休暇とは

「働き方改革」ということが語られるとき、「有給休暇」は避けて通れません。厚生労働省の資料によると、有給休暇とは「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです」とあります。

そして、この有給休暇が付与される要件は2つあります。

(1)雇い入れの日から6か月経過していること、

(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したことです。

一般の労働者(週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、又は1年間の所定労働日数が217日以上の労働者)

週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下、又は1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者に適用されます。

「有給休暇」の運用でやってはダメなこと

有給休暇の利用目的は、社員の自由であり会社として干渉をすることはできません。つまり、有給休暇を利用目的によって、付与したりしなかったりすることは許されませんので注意してください。では、会社は社員の言いなりにならないといけないのか?というと、そんなことはありません。労働基準法では、その社員の有給休暇を認めることによって、事業の正常な運営を妨げられるような場合は時期を変更することができる、となっています。

労働基準法 第39条

⑤ 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

時季変更権が行使できる場合

実際に時季が変更できるかどうかは個別に判断されますが、主に下記の3つのケースでは時季変更の余地があるとされています。

  • 代替人員が確保できない

急な有給休暇申請により代替人員が見つからない場合。しかし、「人手不足だから」「繁忙期」だからなどの理由だけでは時季変更権が認められない可能性が高いです。その社員ではなければならない理由があり、代わりに出勤できる人員を探す等、会社としてやれることをやった上での判断になります。

  • 同時期に休暇者が重なっている

一斉にたくさんの社員が休むことによって事業の運営が困難になってしまう場合。ただし、複数の社員から有給が申請されていることのみが理由では認められず、それにより事業の運営が困難になるという明確な根拠や理由が必要となります。

  • 長期間の有給休暇を取得する

事前に申請や相談もなく、長期間の休暇申請がされた場合。

繰り返しになりますが、上記のような理由であれば、時季変更権が行使できる可能性がありますが、あくまでも業務に支障のある場合のみ行使できます。そのため、正当な理由なく年次有給休暇の取得を認めないときは、6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金を科される恐れがありますの注意が必要です(労働基準法第119条、39条)

重要なことは社内のコミュニケーション

有給休暇は、原則、社員が取得したい時季の取得できるというものですが、世界的にみて日本人の有給休暇の取得率が低いといわれている背景もあり、2019年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられています。

この義務にも違反に対する罰則があり、違反した場合は、30万円以下の罰金(労働基準法第39条第7項、労働基準法第120条)。となります。ちなみに、この違反は、社員ごとに成立すると考えられるため、理屈上、5日間の有給休暇を取得させなかった対象者が10人であれば、300万円以下の罰金まで科される可能性があることになります。

会社が時季を指定する場合でも、社員が時季を指定する場合でも重要なことは、会社と社員とのコミュニケーションです。普段からコミュニケーションをとっておくことで社員の状況などを把握することができますし、会社としての意向や情報を伝えることもできます。そのようなコミュニケーションが結果的に、有給休暇取得のトラブルを防ぐことにつながり、有給休暇の取得が円滑に進んでいくことになります。

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