菅野美和子 の 『世帯分離』のあれこれ 第6回 世帯分離と税・健康保険の扶養

マイアドバイザー® 菅野美和子 (スガノ ミワコ)さん による連載コラム(不定期)です。

『世帯分離』のあれこれ 第6回 世帯分離と税・健康保険の扶養です。

世帯分離とは、もともとひとつの住民票でまとまっていた世帯を、別の世帯に分けるということです。世帯分離をすると経済的なメリットがあるように思われていますが、これまでにもお話してきたように、メリットばかりではありません。いろいろな視点から見ていく必要があります。

 

菅野美和子プロフィール

 

世帯分離と税金

たとえば現役世代で働く子どもが高齢になった親と同居し、親を扶養しているとき、親の年金収入などが基準以下であれば、扶養控除を受けられます。親の世話をしているので、お金も必要になることから、税金で負担を軽減するという制度です。70歳以上で同居している親の場合、58万円の控除額(同居老親等に該当)があるので、子どもの所得税負担が軽減されます。

ところで、世帯分離をすると、扶養控除を受けられなくなるのでしょうか。

扶養控除には同居という要件はありません。別居の親であっても、仕送りをしているとか、生活費を負担しているとか、扶養という実態があれば、扶養控除(同居老親以外の者に該当)の対象です。

今まで同一世帯だったものを別世帯とした場合、実際にひとつ屋根の下で同居し親の生活を支援しているのであれば、同居老親として扶養控除を受けることができるでしょう。ただしさまざまなケースがあるので、すべてが認められるとは限りません。

扶養控除を申告した後に否認されると、追加で所得税を支払う必要が生じますので、そのときの負担感は大きいものです。後で困ることがないように、扶養の実態を伝えて、あらかじめ税務署で確認するようにしましょう。

扶養控除の有無は所得税ばかりではなく、住民税にも影響します。

世帯分離と健康保険の扶養

次に世帯分離をしたあとも健康保険の扶養家族(被扶養者)になれるかどうかについて考えます。75歳以上の親の場合は、後期高齢者医療保険制度に加入するので、健康保険の扶養家族となることはありません。しかし、75歳未満の場合は、世帯分離をすることで、健康保険の扶養家族に該当しなくなる場合があります。親であれば別居でも扶養家族の対象ですが、仕送りが必要(仕送りの証明も必要)です。加入する健康保険で取り扱いが異なることがありますが、世帯分離すると原則として「別居の扱い」となると理解してください。世帯分離を実行する前に、加入する健康保険へ確認してください。扶養家族から外れてしまうと、国民健康保険への加入となり、保険料負担が発生します。

 

会社員の親と無職の子どもが同居する場合、世帯分離をすることで、子どもの国民年金保険料の納付特例(保険料納付が猶予される制度)に該当することがあります。しかし、世帯分離で健康保険の扶養家族として認定されなくなると、子どもは国民健康保険料を負担しなければなりません。同一世帯で健康保険の扶養家族となっているほうが有利だといえるでしょう。

世帯分離と企業のさまざまな制度

会社によっては扶養手当や福利厚生制度など、さまざまな制度があります。世帯分離で別世帯となると打ち切られることになるかもしれません。(会社の規程によります)

会社のさまざまな福利厚生制度の利用は、同一世帯と限られていることがありますので、世帯分離すると福利厚生の対象外となることもあると理解しておきましょう。

世帯分離は難しい

6回にわたり世帯分離についてお話しておきましたが、世帯分離を決めるのは難しいものです。

税負担や保険料負担が少なくなる場合は、世帯分離が有利でしょう。しかし、世帯分離することでかえって負担が増える場合もありますので、注意が必要です。

他にも、世帯分離のデメリットとしては、公営住宅に申し込めないなどがあります。

 

生活保護の場合はどうでしょうか。生活保護は世帯全体の収入で判断されます。世帯分離しても、原則として(特別な事情がある場合除く)同一の世帯とみなされます。

世帯分離の手続きは難しくはありませんが、手続きすれば100%認められるとも言えません。もともとの目的が「独立した世帯として家計を別々に管理する」ということですので、目的に添わない理由であれば認められない場合もあります。

世帯分離について、少し理解が進みましたでしょうか。世帯分離を考えるときに、参考としていただければと思います。

 

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