岡本英夫のFPウオッチャーだより 第54回 日本FP協会の「FP概論」に思う

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

 日本FP協会の認定教育機関がAFP・CFP®の通信教育講座やテキストを制作する場合、「FP概論」と提案書作成問題は日本FP協会が制作したものを使用しなければならない決まりになっている。他の金融資産運用設計・ライフプランニング・リタイアメントプランニング等のテキストは自由に制作できる。CFP®についてはFP協会の標準テキストがあるが、AFPの通信教育は今もいくつかの認定教育機関が制作している。

「FPの定義」と独立系FP

 日本FP協会が制作する「FP概論」は何度か上書きされてきた。FPの定義は1969年設立のIAFP(現FPA)が規定したものが採用されてきた。それは「顧客の収入や負債など、顧客に関するあらゆるデータを集め現状を分析した上で、必要に応じて弁護士、会計士等の専門家の協力を得ながら貯蓄計画、保険・投資対策、税金対策等、包括的な生活プランを立案し、それを実行していくための手助けを行う専門家をいう」というものである。
 原文を忠実に訳したものだが、訳者により表現は若干異なっていた。㈱近代セールス社は別の訳者のものを採用していたが、1998年に日本FP協会の認定教育機関になるとき、上記の訳文に統一した。以後、何度か、この文章は上書きされ饒舌なものになったが、「FP概論」そのものがFP協会からいただいたデータを印刷するため、さして気に留めなかったが。ちなみに、現在の日本FP協会のHPにある「FPとは」では次のように表現されている。
 「人生の夢や目標をかなえるために総合的な資金計画を立て、経済的な側面から実現に導く方法を「ファイナンシャル・プランニング」といいます。ファイナンシャル・プランニングには、家計にかかわる金融、税制、不動産、住宅ローン、保険、教育資金、年金制度など幅広い知識が必要になります。これらの知識を備え、相談者の夢や目標がかなうように一緒に考え、サポートする専門家が、FP(ファイナンシャル・プランナー)です。」
 そして、「FPは、相談者の夢や目標を達成するために、ライフスタイルや価値観、経済環境を踏まえながら、家族状況、収入と支出の内容、資産、負債、保険など、あらゆるデータを集めて、現状を分析します。そして、相談者の立場や、ライフイベントを考慮したうえで、長期的かつ総合的な視点でさまざまなアドバイスや資産設計を行い、併せてその実行を援助します。また、必要に応じて、弁護士や税理士、社会保険労務士、保険・不動産の専門家、銀行・証券会社などの各分野の専門家のネットワークを活かしながらファイナンシャル・プランニングを行います。」と説明されている。
 これでは、顧客から「ファイナンシャル・プランナーって何ですか?」と聞かれたときに一言で説明するのは難しい。筆者は、金融機関でのFP研修でFPの必要性を語るとき、上記の定義をもとに「これが金融商品の最新の販売手法で、ファイナンシャル・プランニングは顧客の問題解決型ビジネスで、商品販売はその結果なのです」と説明してきた。

FPの定義が生まれた経緯

 IAFPは金融機関の属さない独立したFPの団体として誕生した。当時は誰でもファイナンシャル・プランナーと名乗ることができたため、顧客の資金運用アドバイスなどで問題を起こす者も少なくなかった。善良なプランナーから見れば迷惑千万で、自主規制団体を作る必要があった。善良なFPを組織化するために作られたのが「FPの定義」であり、教育プログラムであり、CFP®資格である。そして、これらは独立系FPの発展に大いに寄与した。日本FP協会が目指したのも独立系FPのわが国への導入であり、当初からIAFPの日本版を意識していた。
 一方、米国の金融機関では、顧客の金融資産の拡大と高齢化、進展する金融自由化と複雑化する税制の中で金融商品の販売手法に悩んでいた。「顧客の立場に立って」「消費者のニーズに合ったものを」とは言ってもその手法がわからなかった。この問題を解決したのがファイナンシャル・プランニングで、ここでいうファイナンシャル・プランニングとは、消費者志向、消費者中心主義のマーケティング哲学であり、従来の販売手法とは異なる画期的な販売手法ととらえられた。
 米国金融業界に大きな影響を与えた有名なスピーチがある。IAFPのC・ピーターソン会長が1976年にICI(アメリカ投資会社協会)でおこなったスピーチで、米国の投資信託業界の首脳が集まる席上で、旧態依然たる販売手法を改め、もっと真剣にファイナンシャル・プランニングを取り入れることを訴えたものである。「販売手法の3段階発展説(ヘンリー・フォードの時代、IBMの時代、ファイナンシャル・プランニングの時代)」を提示し、ファイナンシャル・プランの提言が金融商品販売手法の最終段階だというものである。
 このスピーチの時点で証券会社E.F.ハットンはファイナンシャル・プランニングに積極的に取り組み、専門部署にスタッフを配置し、セールスマンに対してCFP®の称号を取得するよう奨励していた。その後、他の大手証券も同様の施策をとり、無料の相談サービスと金融機関のブランド力を背景に顧客に受け入れられていった。そしてわが国では野村投信販売がこの動きに着目し、IAFPの世界大会に参加するようになる。これが後継の国際証券の「企業イメージとしてのファイナンシャル・プランニング」につながるのである。
 この金融商品(融資を含む)の販売手法としてのファイナンシャル・プランニングのコンセプトは、証券業界だけでなく都市銀行、信託銀行、保険会社にも広がり、各業界ともFP的なセールス手法の研修と人材養成に乗り出した。当初は専門部署を設置しての専担者養成だったが、やがてファイナンシャル・プランニングは商品販売の基礎知識として顧客に接するセールス担当者全員の必要知識であることに気づくのである。その結果、㈱近代セールス社や金融財政事情研究会が制作するFP通信教育の採用に結び付いたのである。

日本FP協会と金融専門出版社の違い

 日本FP協会の前身はダイヤモンド社であるが、同社は1985年10月、井畑敏氏が代表をつとめるMMIをはじめ数社の金融機関と共同出資、資本金1億円のダイヤモンド・ファイナンシャルプランナーズを設立、ファイナンシャル・プランナーの事業化に乗り出した。最初におこなったのが1986年1月17日から4月26日までの12回にわたる「ファイナンシャルプランナー養成ゼミナール」である。この講座はその後も開催され、当時の講師陣と修了生が中心となって1987年11月、日本FP協会が設立されるのである。
 一方、㈱近代セールス社は1983年頃からFPの米国での展開とわが国金融機関の動きに注目、国際証券や都市銀行、信託銀行、生命保険会社からの情報をもとに金融専門出版社としてFP養成の事業化を図るべく1986年1月に近代FP協会を設置、同3月に単行本「ファイナンシャル・プランナー(大和証券経済研究所・編著)を出版、通信教育講座、FP専門誌の制作を視野に活動を開始する。ただし、近代FP協会が想定するマーケットは金融業界に限定されていた。
 以上のように、独立系FPに重きを置く日本FP協会と、金融機関内FPの養成を目的とした近代セールス社・近代FP協会ではマーケットが異なっていた。後者は金融商品販売の手法としてFPをとらえているため、FP概論やいわゆる「4E(教育・試験・経験・倫理)」については金融機関の人事制度、研修目的、内規に委ねるスタンスをとっていた。たとえば倫理でいえば、顧客対応に問題があれば、金融機関の内規によって処分される。独立系FPのような自主規制規約である倫理規定は必要ないのである。
 日本FP協会の場合、当初からFP専門会社MMIの井畑敏氏や会計人FPの岩崎善四郎氏、日興証券出身で経済評論家の三原淳雄氏が理事として加わっており、独立系ファイナンシャル・プランナーの養成と会員化も目的としていた。そこではFPの定義や倫理規定を備え、組織や会員の信用を維持する必要がある。それがAFP、CFP®資格であり会員証なのである。一方で、金融機関に所属するFPは名刺に資格名など書かれていなくても、信用は担保されている。また、提案内容の責任は個人ではなく、金融機関が負うことになる。
 なお、近代FP協会という部署はFP事業部、FA編集部と名を変え、現在は廃止されている。金融財政事情研究会・きんざいFPセンターが金融機関(主として銀行)のFPを会員化しているが、会員サービスの終了が決定しており、技能士資格の試験実施団体といったほうがよいといえる。

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