岡本英夫のFPウオッチャーだより 第44回 そろそろ欲しい「デフレ脱却宣言」

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

デフレ経済はいつ始まったか

 1999年に経済企画庁(現内閣府)はデフレーションを「物価下落を伴った景気低迷」と定義した。戦後はインフレ経済が続いたこともあって、それまでデフレの定義は必要なかった。戦前では1881年からの緊縮財政による「松方デフレ」と1929年の金融恐慌を挟む数年間がデフレとして有名だった。
 戦後、消費者物価がはじめてマイナスに転じたのは1995年である(前年比-0.1%)。94年12月に東京協和信組、安全信用組合が破綻し、95年1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件、8月には兵庫銀行が破綻。日本銀行は公定歩合を同年4月に1.75%から1%に、9月には0.05%に引き下げている。今からさかのぼること30年前のことである。
 翌96年の消費者物価上昇率は0.1%、97年は消費税が3%から5%に引き上げられた影響で1.8%上昇したが、11月には三洋証券、拓銀、山一證券が相次いで破綻。98年暮れには長銀、日債銀が特別公的管理に移行(消費者物価上昇率は0.6%)。賃金下落と雇用流動化を促進した。翌99年には-0.3%、2000年はー0.7%と物価はマイナスで推移した。

デフレ定義の見直しとデフレ経済の進展

 こうした中、先に述べたように経済企画庁は99年にデフレの定義をおこなったが、01年3月の月例経済報告にあわせ「持続的な物価下落」に改めた。同月、政府は日本経済が「緩やかなデフレにある」との見解を表明した。95年の戦後初の物価下落から6年後のことである。吉野家の牛丼が400円から280円となったのがこの2001年である。
 以後、物価下落は継続的に続く状況となった。2008年に資源の国際価格が高騰した影響で消費者物価は1.4%上昇し、日本経済も好転しかけたが、直後のリーマンショックで翌年-1.4%とデフレに後戻りした。2013年1月以降のアベノミクスと4月以降の「黒田バズーカ」が好意的に受け入れられたのも長く続いた物価下落による経済低迷の結果である。
 とはいえ、安倍政権時代には2014年と19年に消費税が2度にわたって引き上げられている。14年の物価上昇率は2.6%、19年が0.5%の上昇であった。デフレ経済下での消費税率の引き上げは国民生活にマイナスに作用した。15年、16年の物価上昇率は各0.8%、-0.1%であった。20年は0.0%である。

デフレ脱却宣言はいつか

 政府・日銀は2013年以降、物価上昇率の目標を2%としてきたが、マイナス金利政策の下でもなかなか達成できなかった。以下に2021年以降の対前年上昇率を国内企業物価指数、輸入物価指数とともに掲げたが、輸入物価の上昇が円安の進行により続いたが、物価上昇率が2%を超えたのはコロナ禍を過ぎた2022年以降のことである。

物価上昇率の推移(2021年~)

消費者物価指数 国内企業物価指数 輸入物価指数
総合 除く生鮮食品
2021年 – 0.2 – 0.2   7.1  31.3
2022年   2.5   2.3   9.5  33.2
2023年   3.2   3.1   2.4 – 7.2
2024年   2.7   2.5   3.3   2.4
2025年9月   2.9   3.0   2.7 – 0.8

 表を見てもわかる通り現在は、4年連続でインフレ状態にあり、日銀は「現状はインフレ状態」と説明し、2025年1月に続く利上げを意図している。それでも日銀・政府ともデフレへの後戻りを恐れており、インフレ脱却宣言は出していない。高市首相は去る11月11日の衆議院予算委員会で「デフレを脱却したとは言えないが、デフレ脱却宣言を目指す」と明言した。
 個人的には、すでにデフレからインフレに移行していると思っている。「金利ある時代」となり、長期金利は1.7%まで上昇している(11月末現在)。できれば26年度予算の成立するタイミングで政府・日銀が「デフレ脱却宣言」を出し国民の気分を一新、「失われた30年」に終止符を打ち、新たな成長経済をつなげてほしいものだ。
 実はFPのキャッシュフロー表の作成も、2000年前後からは物価および賃金は上昇しない前提で作成されることが多かった。それまでは物価および賃金は上昇することを前提としていた。老後資金2,000万円もデフレ時代の産物である。FPにも早晩発想の転換が求められる。

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