愛人としての相続【2012年 第12回】

【2012年 第12回 愛人としての相続】女性のための幸せ相続を考える

マイアドバイザー®事務局 株式会社優益FPオフィス

配偶者がいる相手との関係も、相手の死によっていつかは終わりを迎えます。事実婚とも違う、愛人という立場での相続は、法的にはどこまで保護されるものなのでしょうか。

■ 相続権のこと

相続人となりえるのは、法律上の妻や子など一定の範囲の親族だけです。たとえ相手が長年妻と別居し夫婦関係が冷え切っていたとしても、正式の配偶者でない愛人に相続権はありません。

しかしながら正式な遺言書があれば、遺贈という形で相手の財産を譲り受けられる可能性はあります。ただしそれには条件があり、不倫関係にある愛人への遺贈が「公序良俗」に反する行為にあたる場合には、愛人に遺贈する遺言は無効となります。

公序良俗違反とは、社会の一般的な秩序や道徳観念に反することです。公序良俗違反とならずに有効な遺言とした判例では、その遺贈が、

・不倫関係の維持継続を目的とせず、もっぱら愛人の生活を支援するためのものであること

・遺贈により配偶者や子の生活の基盤が脅かされるものでないこと

などの事情が考慮されました。(最高裁 昭61年11月20日)

 

■ 子どものこと

相手との間に子どもがいる場合、何も手続きしなければ法律上の結婚をしていない男女から生まれた子に相続権は生じません。父親が子の認知をすれば、愛人の子は非嫡出子として、本妻の子(嫡出子)の半分の財産を受ける権利を持ちます。

認知をすると、認知を受けた子自身の戸籍だけでなく、父親の戸籍にも、いつ、どこの本籍地の誰を認知したかが記載されますので、戸籍を見れば法律上の妻や子どもにも認知した子の存在が明らかになります。認知は遺言によってもすることが可能なので、生前ではなく遺言書で認知する方法がとられることもあります。

遺産分けについて、認知した子は相続人として、父親の遺言書があればそれに従って遺産を受け取るか、無い場合には他の相続人とともに遺産分割の話し合いに参加することになります。

遺言書がなくて相続人同士で遺産分割の話し合いをする場合、相続人のひとりの合意でも欠けると話し合いが有効に成立したことにならないので、認知した子も必ず話し合い(代理人への委任や郵送によっても可)に参加することが求められます。

認知した子の所在は、父親が生まれてから亡くなるまでの戸籍を手がかりとして、その子の「戸籍の附票」の写しを取り寄せれば現住所までをたどることができます。

ところで、結婚していない男女の子(非嫡出子)の相続分が嫡出子の2分の1であるという民法の規定については、「法の下の平等」という憲法の定めに違反するのではないかという論争があります。

平成23年8月に大阪高裁では、民法のこの規定が憲法に違反するという決定をしました。また、平成23年12月に名古屋高裁では、民法の規定そのものは憲法違反とはいえないが、事情によってはこの規定をそのまま適用することが憲法違反になると判断し、非嫡出子に嫡出子と等しい相続分を認める判決を下しました。

嫡出子か非嫡出子かは、子ども自身の意思で左右できるものでないことや、家族関係に対する意識や実情が変化してきていることなどを踏まえたこれらの決定や判決は、今後の民法改正に影響を与えると考えられています。

■ 住まいのこと

相手が借りてくれた賃貸マンションに一緒に住んでいたとします。この場合、相手が死亡したら直ちに愛人はマンションから追い出されてしまうのか?といえば必ずしもそうではありません。

相続人が誰もいない場合(相続人全員が相続放棄をした場合を含む)には、事実上の夫婦として賃借人の権利義務を引き継ぎ、住み続けることができます(借地借家法36条)。

相続人がいる場合には、賃借権は相続人が相続しますが、相続人の賃借権を“援用”して、愛人が住み続ける権利を主張できるとした判例があります(最高裁 昭42年2月21日)。

また、相手の持ち家に一緒に住んでいた場合も、相続人が明け渡しを請求しても、相続人がその家を利用しなければならない差し迫った必要性がなければ権利濫用にあたるとして、明け渡し請求が認められなかったケースもあります(最高裁 昭39年10月13日)。

このように、住まいに関しては愛人に一定の保護が図られる場合がありますが、全てのケースにおいて保障されている当然の権利ではありません。実際には、個別の事情を考慮し判断されることになります。

相続権、子供のこと、住まいのことなど・・愛人という立場で相続を迎える場合、法律の保護はほとんど受けられない厳しいものとなっています。自分と相手を取り巻く環境を考え、相手の死によって自分や子どもが困らないよう準備しておくことが大切ですね。

さて、本コラム「女性のための幸せ相続」は今回をもちまして終了です。女性のみなさまが、そしてご家族おひとりおひとりが幸せを感じられる自分らしい相続について考え備えるきっかけとなり、家族の絆がよりいっそう深いものになりますことを願っております。

(免責事項) ※個別の案件についての法的な判断につきましては、具体的な事実関係等を確認し、当事者の事情等をふまえ総合的に考慮し判断することが必要となりますので専門家と十分にご相談下さい。本コラム内で提供された情報のご利用は利用者の責任において行われるものとし、本コラムのご利用により生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負わないものとします。

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