生前事務委任契約の奮闘記~収支を知ろう~【2016年 第6回】

【2016年 第6回 生前事務委任契約の奮闘記~収支を知ろう~】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ

 竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール

相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。
今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、実際に起こった相続関連のできごとをストーリー形式でお伝えします。
今年度第5回目コラムにて、成年後見制度の実務上でしか知りえない運用や裏話として、「移行型の任意後見契約と金融機関の対応」についてお伝えしましたが、今回は、「移行型の任意後見契約」の中身である「生前事務委任契約」の実務の裏側をご紹介しますね。
この移行型の任意後見契約を依頼した高齢者をAさん、その依頼を受けた専門家をBさんとしてこの後の話を進めます。

(「生前事務委任契約」については前回のコラムをご覧ください。)

1  Aさんの収入と支出のすべてを知るには郵便物が一番の手掛かり

元気なうちに締結するのが任意後見契約移行型ですので、Aさんは元気なうちに自分の財産をBさんへ託すことになります。
元気なAさんですから自分の収入と支出を把握できているはず・・・・ですよね?

しかしAさんは長年にわたり自分の収入と支出を把握せずに「その日暮らし」をしていたので、自分の毎月の収支が全くわかっていませんでした。

まずBさんはAさんの通帳を預かり、定期的な収入とプラス財産を調査しました。
収入の調査の方法は、預かった通帳の入金明細を書き出すことでした。
Aさんへのヒアリングだと厚生年金(国民年金含む)、共済年金、確定拠出年金の3種類があるということでしたが、入金明細には2種類しか確認できず、1つが漏れていることが判明しました。
そこで漏れていた年金の管轄窓口に電話や訪問で問い合わせ、手続きを行いました。

次に毎月の支出を調査しました。
Aさんは自身の支出を把握しておらず、BさんがAさんへ聞き取りしても「わからないなあ」の返事しか返ってきません。
そこでBさんはAさんの預貯金通帳の引き落とし履歴をチェックすることと、Aさんあての郵便物をすべて預かりそこから手がかりを見つけることとを実行しました。
毎月の支出は生活費、介護費用、医療費、税金、国民健康保険料、水道光熱費、その他公共料金であることと、その金額明細を把握しました。

最後に、マイナスの財産の把握をしました。
郵便物をチェックしていくと、国税・市都道府県民税の滞納を表す文書と差し押さえ予告通知書がありました。
ほか民間の会社からの郵便物からは借金らしきものの催告書を発見しました。
そのなかでも驚くのが○○ファイナンスからのリボ払い未払い金の請求でした。
○○布団50万円の代金が未払いとなっています。布団に50万円も支払っていたのです。
クーリングオフの期間はとっくに過ぎていること、ほかに法律上取り消しや無効の要件に該当していないことから、仕方なく支払い計画をたてることになりました。
ほか、Aさんはテレビもパソコンも持っていないのにテレビの電波使用料やインターネットプロバイダーサービスの請求書がありました。
これらはお客様サービスセンターへ問い合わせて、即時解約手続きをしましたが、解約までの課金分は支払い義務があり、こちらも仕方なく支払計画をたてることになりました。
結局、マイナス財産を調べますとそれらは合計300万円にものぼることがわかりました。この借金の返済をどうするのか、Bさんは悩みました。

2 借金のほうが多い場合、税金・国民健康保険料などの延滞金が高いものから優先的に返済する

300万円もの借金が判明したAさん、その内訳は前述したとおりです。
この返済の優先順位としては、国税・地方税・健康保険料などのかならず延滞金がつく公的な支払いを一番に考えました。
なぜならばこの未払い金を理由としてAさんの財産や収入への差し押さえが行われる可能性が高いからです。Bさんは手持ち現金をかき集め、まず税金関係をすべて返済しました。

次に返済の優先順位が高いのは医療や介護の費用です。
未払い金が膨らむとAさんは医療や介護サービスを受けられなくなり、生活に支障が生じるからです。

ほかの借金についても放って置けませんので、支払先と話しあって返済計画をたてました。

3 生前事務委任契約は「遠くの親戚より近くの他人」

以上のように、BさんはAさんのために生前事務委任契約の受任者として任務を行うのですが、このような任務はまるで家族や親戚のすることではないかと思うくらいきめ細やかな内容ですね。
身寄りがあってもその身寄りが遠方に住んでいるため、財産のことを頼めない高齢者にとっては、高齢者が認知症などで判断能力が低下するまで財産の事務を専門家などがサポートできる移行型の任意後見契約は遠くの親戚より近くの他人という言葉がぴったりですよね。
BさんはAさんの人生を預かるのだという自覚のもとで、今後もAさんを見守り続けることでしょう。

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