尊厳ある生活のための準備【2013年 第12回】

【2013年 第12回 尊厳ある生活のための準備】成年後見人への道

三次 理加 ⇒プロフィール

祖母が横領に遭った事件は、祖母が亡くなった後、およそ半年後に相手方との和解が成立しました。弁護士に支払った費用は、100万円近く!金額的にはもちろんのこと、精神的にも負担がかかりました。親族がこのようなトラブルに巻き込まれないために、また、自分自身の尊厳ある生活を守るために、事前に準備できることがあります。それは「任意後見制度」を利用することです

尊厳ある生活のための準備

将来、自分の判断能力が不十分となった時に備えるための制度が「任意後見制度」です。任意後見契約における任意後見が開始した人は、平成24年は685件でした。(注1) そこから、任意後見の契約数自体は、年間千件程度はあるのではないかと推計されます。
注1:資料「成年後見関係事件の概況-平成24年1月~12月-」/最高裁判所事務総局家庭局

「任意後見制度」は後見される本人の意思に基づく「事前的」な契約です。誰を任意後見人に選ぶのか、はもちろんのこと、任意後見人に付与する代理権の範囲、報酬等も本人の意思で決めることができます。ただし、成年後見と異なり、任意後見には「取消権」はありません。
一方、第7回で説明したように、成年後見制度のうち「法定後見制度」は、事後的なものです。また、成年後見(保佐・補助)人を家庭裁判所が選任するため、本人や親族が希望する通りの成年後見(保佐・補助)人が選任されるとは限りません。
任意後見制度利用の手続きについて
任意後見制度利用の手続きの流れは、図表1の通りです。
まず、本人(=委任者)と任意後見受任者が、代理権を付与する委任契約を公正証書により締結します。
公証人は、登記所に任意後見契約の登記を嘱託します。任意後見人受任者とは、本人と任意後見契約を結ぶ相手のことを指します。

その後、本人の判断能力が低下してきたら、家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立」を行います。

申立ができるのは、本人、配偶者、四親等以内の親族、任意後見受任者です。

家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見が開始されます。この段階で、任意後見受任者は「任意後見人」となり、委任契約に基づき後見事務を開始します。任意後見監督人は、任意後見人を監督し、家庭裁判所に定期的に報告をします。また、本人と任意後見人との利益が相反する行為について本人を代理します。任意後見人は、任意後見監督人に報告する義務が発生します。つまり、任意後見契約は、本人と任意後見受任者との間の自由な契約ですが、任意後見が発効した後は、任意後見監督人を通じて家庭裁判所が任意後見人を監督することになります。

任意後見は、本人または任意後見人が死亡・破産すると終了します。 そのため、たとえば身寄りのない方が委任者となる場合、任意後見契約だけではなく、病院の費用清算や葬儀等の死後事務について、別途委任契約を結ぶことを検討することをお勧めします。

なお、任意後見監督人が選任される前であれば、本人または任意後見受任者は、いつでも契約を解除することができます。ただし、公証人の認証が必要です。任意後見監督人が選任された後であれば、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約を解除することができます。

任意後見と法定後見の関係

法定後見と任意後見の関係は「任意後見優位の原則」というものがあります。これは自己決定権の尊重によるものです。そのため、原則として、任意後見は法定後見に優先され、また、任意後見と法定後見が併存することはありません。 (図表1 参照)

任意後見には、デメリットもいくつかあります。一つ目に、委任者(=本人)の判断能力が低下したか否かの判断をすることが非常に難しいということが挙げられます。また、任意後見契約を締結後、委任者と任意後見受任者が継続的に連絡を取り合う仕組みをつくらないと、任意後見受任者が委任者の判断能力低下に気がつかず、「任意後見監督人選任の申立」をしないこともあり得ます。二つ目は、任意後見受任者が「任意後見監督人選任の申立」をあえて行わないこともあり得るということです。任意後見監督人がいなければ、任意後見は発効しませんが、任意後見受任者を監督する人はいません。

任意後見契約を締結する際には、委任者、任意後見受任者、ともに制度をよく理解し、相手が契約を締結するのに適した人材が否か、慎重に検討するようにしましょう。

今日で最終回です。一年間、ご覧いただき、ありがとうございました!

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