退職時期のミステリー【2014年 第8回】

2014年 第8回 退職時期のミステリー 年金ミステリー

菅野 美和子(スガノ ミワコ)プロフィール

 

長くサラリーマン生活を続けてきたAさんは、65歳を機に退職しました。一足先に退職した同僚や先輩から、退職後、老齢厚生年金と雇用保険からの失業給付は両方もらえないと聞いていました。ところが、ハローワークへいくと、老齢厚生年金も雇用保険からの失業給付も、両方もらえるというではありませんか。両方もらって、大丈夫でしょうか。

 

 

 

 

公的年金制度と雇用保険制度

公的年金制度と雇用保険制度は別の制度ですが、老齢厚生年金と雇用保険からの失業給付(基本手当)は調整されます。同時に併せて受け取れないということです。

老齢厚生年金は高齢になり働けない人のための生活保障です。失業給付(基本手当)は、働くことができ、仕事を探しているのに仕事がみつからない人のための生活保障です。

相反する給付ですので、「両方もらえない」という仕組みになっています。

さて、Aさんは、大学卒業後に就職し、60歳の定年まで働きました。60歳以降も継続雇用で働いてきました。

継続雇用は65歳までです。65歳の誕生日の前日まで働くことができるのですが、4月5日が誕生日であるAさんは、65歳になる直前の3月31日で退職することにしました。

Aさんはすでに老齢厚生年金を受給しています。先に退職した同僚や先輩から、老齢厚生年金と失業給付(基本手当)はもらえないと聞いていました。みんなは「保険料を払っているのにもらえないなんて・・・」と不満そうでしたが、退職前のAさんには実感がなく、そんなものかなと思っていました。

退職後、Aさんはすぐに就職先を探す予定はありませんでしたので、ハローワークでの手続きをしませんでした。退職したらしばらくゆっくりしたいと思っていたのです。

ところがゆっくりできてうれしかったのは最初の2週間程度です。これまで仕事中心の生活を送っていたため、急に自由な時間ができても、暇をもてあますようになりました。さらに妻の機嫌がだんだん悪くなり出しました。働いていた方が健康にも妻との関係にも良いと悟り、短時間で働ける仕事を探すことにしました。

そこで、ハローワークで求職の申し込みをすると、雇用保険から失業給付(基本手当)を受け取れることがわかりました。そして、老齢厚生年金も支給停止にならず受け取れると説明がありました。

これまでに聞いていた話とは違うと思い、昨年、64歳で退職した元同僚Bさんに電話をしました。Bさんは、失業給付を受け取っている間、年金が停止になったことに間違いないと言いました。

Bさんの話を聞いて、あとで年金を返してくれと言われるのではないかと、Aさんは心配になってきました。

しかし、AさんのケースもBさんのケースも間違いではありません。

雇用保険の失業給付(基本手当)と老齢厚生年金が調整される(両方受け取れない)のは60歳~65歳未満の間です。

Bさんは64歳で退職しました。老齢基礎年金と失業給付である基本手当を受ける権利が両方ありましたが、基本手当を受給したので、その間、年金はストップしました。なぜなら、基本手当の受給期間が65歳前であったからです。

Aさんは65歳になる直前で退職しました。退職後、会社から離職票を受け取ってハローワークへ手続きに行きましたが、そのときはすでに65歳になっていました。65歳前に退職したが、実際に基本手当を受けるのは65歳以降。このようなケースでは、失業給付と老齢厚生年金は両方受け取れます。なぜなら、基本手当の受給期間が65歳以降になれば、年金との調整はないからです。

また、年金だけではなく、65歳前後では、雇用保険からの給付日数も異なります。

雇用保険から基本手当が支給されるのは、65歳の誕生日の前々日までに退職した場合です。基本手当は最大で150日分支給されます。65歳(65歳の誕生日の前日)以降に退職すると、基本手当は対象外となり、最大で50日分の一時金(高年齢求職者給付金)になります。

退職の時期、手続きの時期で、受け取れる金額等が違ってきます。

雇用保険からの給付を考えて、65歳前に退職するのがよいでしょうか。

65歳前に退職すると基本手当の対象となりますが、65歳前に受給すると年金は支給停止となります。

それではハローワークでの続きを遅らせて、65歳以降に受け取れるようにすればよいのでしょうか。

基本手当の受給期間は原則として離職後1年以内となっていますので、あまり遅く手続きをすると、全部受け取らないうちに1年が経過します。基本手当が残っていてももらえません。

早くてもだめ、遅くてもだめ、65歳前後の退職はむずかしいものです。

有利な退職時を教えてほしいと相談を受けることもありますが、年金や雇用保険の給付額だけで決めることではないでしょう。65歳以降も働き続けたくて、働ける環境にあるのなら、働き続けていいのです。150日分が50日分になってしまったとしても、働くことでの充実感や給料というお金を得られるのですから。

制度ではどこかで線を引かなくてはなりません。ミステリアスに思えることも、この線引きを理解していれば謎が解けます。

いずれにしても、雇用保険からの失業給付は、働く気持ちがなければ受け取れませんので、ご注意ください。

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