岡本英夫のFPウオッチャーだより 第30回  卒業したがん診療連携拠点病院での相談業務⑤ ~住宅ローン相談案件への対応~

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

岡本英夫のFPウオッチャーだより、今回は第30回目です。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

がん診療拠点病院でがん罹患者とその家族からの相談を始めたのは2013年からだが、相談内容で多かったのが住宅ローン関連である。すでに三大疾病特約等が付与された団体信用生命保険が取り扱われてはいたが、返済中の住宅ローンの団信は死亡と高度障害にしか対応していないケースがほとんどで、がんに罹患し返済難に陥るケースが多発していた。

例えば、次のような相談である。

住宅ローンの条件変更で対応する

「がんに罹患して治療に専念するため休職中です。収入が減り住宅ローンの返済が苦しいです。傷病手当金を受け取っている間はどうにか返済できますが、ボーナス時返済は貯金を取り崩す状態で。貯金も減ってきており、今後が心配です」(40歳代・男性)

対応策としては、できるだけ早く住宅ローンの借入金融機関に相談し、①一定期間返済額を減額する、②一定期間の返済を利息のみとする。③返済期間を延長し、毎月の返済額を減額する、④ボーナス時返済がある場合、毎月の返済に組み替えるなどの方法がある。

相談者の場合、今は収入が減って返済が苦しいけれども、将来的に仕事に復帰できる見込みがあるのであれば、①②が選択肢に入ってくる。③は返済期間に余裕がないとできない。原則35年まで返済期間を延ばせるが、それも借入金融機関の判断による。④はボーナス時返済が苦しくなっている場合の対応策のひとつであるが、毎月の返済額は増加する。

いずれの場合も、借入金融機関の住宅ローン相談センターなどに出向く必要があるが、これが結構敷居が高く、無理して返済を続けている人が多い。延滞が生じてからの相談では印象が悪くなる。相談者として、金融機関の当該ポジションを調べて電話番号や住所を伝えるなどの対応をした覚えがあるが、まずは金融機関の相談することである。

住宅ローンを借り換える

「7年前、共働きの夫と住宅ローンを組み夫婦で返済中です、私ががんになって正社員だった会社を退職したため、夫の収入だけでは返済が厳しいのです。働けるようになっても、子どももいるため以前のような収入は得られません」(30代女性)

前の例で述べた条件変更で対応する方法もあるが、この場合、夫と妻の連帯債務を夫単独名義とするよう借り換えをおこない、返済期間を延ばして毎月の返済額を圧縮することを考えるとよい。そして、夫の病気に備えて三大疾病特約等新しいタイプの団信に加入する。この借り換えは現在の金融機関のほか他の金融機関に相談しても構わない。

なお、回答は当時のもの。その後、団信の内容が充実し、現在ではがん団信や8大疾病・11大疾病団信なども発売され、金融機関の対応を変化している。要は、悩んだら金融機関に相談することである。また、当時はがんに罹患すると退職する(させられる)ことが多かったが、現在は、退職せずに治療を続けるのが一般的となっている。

リバースモーゲージ、リースバックで対応する

住宅ローン関連の相談時に、検討に値するのが、リバースモーゲージとリースバックである。住宅ローン返済中とはいえ、戸建て住宅やマンションという資産を保有している。その資産を活用して資金を確保し、ローンの返済や医療費、生活費に対応するのである。

リバースモーゲージは、自宅を担保にそこに住み続けながら金融機関から融資を受けるシニア世代向け(55歳以上等の年齢要件がある)のローンである。相談に携わったがん診療拠点病院が地価の高い都市部にあり取扱金融機関もあるので、検討に値した。また、住宅ローンが残っていても借入金で返済すれば、以後の支払いは借入金の利息だけで済む。

ただ、リバースモーゲージの場合、借入要件が厳しく、借入者の死後に担保物件を処分して返済する仕組みであるため相続人の同意等が必要になる、相談者に仕組みを説明したことはあったが、利用までには至らなかった。

リースバックは、所有している戸建て住宅やマンションなどを売却したあとも、引き続き賃貸物件として家賃を払い、同じ物件に住み続けられる制度で、不動産を売却する際に売買契約を結び、同時に買い主と賃貸借契約も結ぶ仕組み。通常の売買では家を明け渡さならないが、リースバックではその心配がない。

利用目的は住宅ローンの負担の軽減や、老後の生活費・教育費・病気の治療費の確保など、まとまった現金が必要な場合などがあげられる。利用条件として、住宅ローンの残高よりも売却価格の方が高いことが求められる。相談の中に、この条件にあてはまる事例が2件あり、この方式をすすめた。1件は取扱金融機関を紹介したので契約に至ったことを承知しているが。他の1件は相談者の対応に委ねたので、どうなったのかはわからない。

使い勝手ということでは、リースバックのほうがよいように思う。取扱業者も増えており、検索すれば、利用方法等も知ることができる。

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