自社が評価されているかどうかを知るためのポイント【2010年 第 8 回】

【2010年 第 8 回】 自社が評価されているかどうかを知るためのポイント  銀行との上手な付き合い方

樗木 裕伸(オオテキ ヒロノブ)

先月、銀行が提供する「情報」「機能」「サービス」(以下、情報提供等と呼びます)の一つに「支店長訪問」「役員訪問」というものがあることをご紹介しました。これらは、「銀行にとってメリットが大きい取引」として挙げましたが、実際には顧客にとっても非常に大きいメリットがあるのですが、実はあまり認識されていないようです。

支店長訪問・役員訪問がなぜ銀行にとっても、顧客にとっても重要であるかを理解するには、銀行の内部の仕組みを理解することが必要です。この理解こそが、銀行との上手な付き合い方の要諦と言えるでしょう。

 

支店長訪問・役員訪問とは

支店長訪問とは、銀行の渉外係(営業)の担当者が、自分の取引先に支店長に表敬訪問してもらうことです。時間にして5分~30分程度です。
役員訪問とは、支店長が自分の支店のお客様に役員に表敬訪問してもらうことです。時間は、5分~30分程度でしょう。
いずれにしても表敬訪問のレベルで形式的なものに過ぎません。
なぜ、こういった訪問が銀行にとってメリットがあるのか説明します。まず銀行の内部の仕組みから見ていきましょう。

銀行の組織構造と融資案件決裁の仕組み

銀行の組織は、大きく「本店」と「支店」にわけることができます。通常、エリア毎に支店を配置しますので、「○○支店」の○○には地名が冠されています。
支店では、支店長をトップに預金係り、融資係、渉外係など機能毎に「係」に分けられています。

融資案件に関しては、
「渉外係・担当者」→「渉外係・役席者」→「融資係・担当者」→「融資係・役席者」→「副支店長」→「支店長」
といった流れで融資案件書類(通常「稟議(りんぎ)」と呼ばれます)が回付されます。

本店は、『機能』毎に組織化されています。融資案件に関しては「審査部」などの名称で審査役などと呼ばれる人が、支店の決裁権限を越える案件に関して決裁の判断をします。

 

 

 

 

 

 

 

 

手数料収入が重要視されてきている現在も銀行の収益の柱が融資業務(貸し出し)であることは、変わりません。貸出金を増やしていくことは、銀行にとって最重要課題です。

ですので、貸出金増加のために銀行全体一丸となって推進すればいいのですが、融資をすると不良債権化するリスクも当然高まってきます。そのため支店では、渉外係(営業機能)⇔融資係(審査機能)を互いに牽制させ、チェック機能を働かせています。

一方、支店と本店の関係は、支店が営業推進の役割を担い、本店(本部)が審査の機能を担うことでチェックしています。

融資における支店長の位置づけ

 通常、銀行融資の決裁権限は、支店長にあります。支店長が決裁できないもの(融資金額、融資条件が権限を越えるもの)は、本店決裁(審査役、部長、役員、頭取など)により決裁されます。

したがって、支店の責任者である支店長は、支店の融資係が可決した案件を最終的に決裁する審査機能の責任者であるとともに、銀行全体から支店が期待されている営業推進の責任者という二つの顔を有しています。

融資案件の決裁をとる難しさ

どのくらい融資の決裁をとるのが難しいかを業界内情にふれて少々説明します。

減点主義の銀行文化において融資係にとって、自分が可決した案件(通常「稟議(りんぎ)」と呼ばれます)が上司(さらに副支店長や支店長)に否決されるということは一大事です。否決されるような決裁をあげることは、銀行員としての資質が問われますし、大げさに言うと銀行員生命にかかわります。

さらに誰かが以前、一度「ダメだし」した顧客に対して、再び可決して、その後何か問題が起きた場合には、全面的に可決した個人が責任を問われます。そのため、一度でも否決された顧客は復活の日の目を見ることはまずありません。

ですので、そんなことになるぐらいなら自分自身のためにも顧客のためにも何もしない(正式な案件として取り上げない)という思考に流されやすく、融資係の担当者は融資案件に消極的な態度をとることが少なくありません。

そのような企業文化を有する銀行において、少しずつ社内的に「根回し」をしていく作業がとても大切だということは、お分かりいただけると思います。
「渉外担当者だけが認知している顧客」から「支店長も認知している顧客」にステップアップし、さらに「銀行全体が認知している顧客」へとステータスアップさせ、融資係が安心して稟議にハンコを押しやすい状況を作っていくのです。

支店長訪問・役員訪問の意義

上記でもご説明したとおり、融資してもらうためには、支店長もしくは本店に決裁してもらう必要があります。
渉外係(営業担当者)は、自分の業績(ノルマ)を達成するためには、融資係のチェックをかいくぐり、支店長に決裁してもらう必要があります。
支店長訪問してもらうことで、支店長に自分の顧客を知っておいてもらうことはもちろん、自分の顧客が「支店長訪問先」としてランク付けされることで積極対応方針先としてステータスアップされます。それは、融資係が保身的に要求してくる厳しい「貸出条件」などが減少することにつながり、営業がやりやすくなるのです。

渉外係と融資係との緊張関係は、支店長と本店の関係にもあてはまります。役員訪問先としてランク付けされることで、本部の審査も円滑に流れるようになります。

支店長訪問・役員訪問は、顧客側からは形式的で無意味なものに見えるため、ともすれば「時間の無駄」とか「面倒くさい」といった印象を持つ方も少なくありません。けれども銀行内部では、重要な意味を持っているのです。

したがって支店長訪問・役員訪問の機会に恵まれた場合は、自社がとても評価されているサインですから積極的に対応したいものです。

では、なりたいといって支店長訪問先になれるか、というと、まず渉外係の営業担当者を動かさなければなりません。それこそが銀行との上手な付き合い方の要諦であり、対応や交渉の巧拙が出てくるところです。

今月は、「自社を評価してくれる銀行を選ぶ」の3つ目のポイント「情報提供」の補足説明を通じて、銀行内部の「力学」をご紹介しました。
今後も銀行と上手に付き合うための要諦をご理解いただくための情報をお伝えしていきたいと思います。

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