岡本英夫のFPウオッチャーだより 第39回 民営化前の「かんぽ」「ゆうちょ」のFP対応を振り返る

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

問い合わせに即日対応で関係を構築

郵政民営前の1990年代、郵政省簡易保険局は郵便局内のFPに相当する「かんぽFA」の養成に熱心であった。
郵政省貯金局も「ゆうちょFA」の養成を行っていたが、先鞭をつけたのは簡易保険局である。
そこには株式会社近代セールス社が密接に関与しており、発端は、同社が受託制作していた第一生命の通信教育「FA養成講座」がきっかけだった。

1988年4月に開講した「FA養成講座」は、受講者数が1万5,000人を超え、生保業界でも話題となっていた。
それが簡易保険局にも伝わり、担当部署から近代セールス社に「話を聞かせてもらえないか」との連絡があった。

翌日、FP部門(近代FP協会)を担当していた筆者が簡易保険局を訪問した。

担当者3名に対し、「FA養成講座」の概要とFPのコンセプトを説明したところ、「FPについてもっと知りたい」との要望を受け、筆者はすぐにプラザ21の田中英之氏(元マイアドバイザー®顧問)に電話をかけ、簡易保険局の担当者と共に訪問する旨を伝え了承を得た。

その後、タクシーでプラザ21日本橋店に案内した。

同店では、田中氏と武田米生氏より、FPの概要や三和銀行の子会社としてのプラザ21出店の狙い、FPの将来性などについて説明を受けた。

帰りのタクシーでは「FA養成講座」の受講者管理システムや添削指導などについて、担当者からの質問に回答した。

これをきっかけに、翌1989年春からの開講を目指し、受託通信教育講座「かんぽFA実践講座」の打ち合わせを開始した。
あわせて、全国の郵政局の営業指導員を対象とする「営業指導員研修」を10日間の日程で同年9月に開講することになった。

この研修は、近代セールス社が提供するFP養成講座に、簡易保険局が20名の受講生を派遣する形で行われた。

「営業指導員研修」の10日間のカリキュラムは次のとおりであった。

表1. 「営業指導員研修」カリキュラム

日程 内容 講師
1日目(月) FPとは何か/FPと保険営業 岡本 英夫
2日目(火) 金融経済の見方/金融商品知識 園部毅(近代セールス社顧問)
3日目(水) 保険販売に必要な公的年金の知識 田中章二(社会保険労務士)
4日目(木) FPに必要な法律知識 東谷隆夫(弁護士)
5日目(金) FPに必要な不動産知識 森田義男(不動産鑑定士・税理士)
6日目(月) FPに必要な所得税の知識 柴原 一(税理士)
7日目(火) FPに必要な相続税の知識 柴原 一(税理士)
8日目(水) ライフプランニングの実践 岡本 英夫
9日目(木) 相続対策の実践・遺言 毛利 益之(東洋信託銀行)
10日目(金) 演習・提案書の作成 柴原 一/岡本英夫


研修は新宿のホテル・サンルートで行われた。

第1週の金曜日の夜には、参加者を募り、新宿2丁目の某所で懇親会を開催した。
全国の郵政局から集まった営業指導員たちは、研修終了後、各地でFPの知識を駆使した営業手法を指導していくことになる。

また、柴原一氏や筆者は、地方郵政局における研修講師としても声がかかるようになった。

かんぽFA実践講座

「かんぽFA実践講座(5か月コース)」は、1989年10月に制作を開始した。
この講座は、「FA養成講座」(近代セールス社と第一生命の共同執筆)をモデルとしつつも、原稿は近代セールス社が作成、初校の段階で簡易保険局が内容をチェックし、発刊する体制を
とった。
1990年4月に開講し、その後、数年間にわたって継続された。

郵政省貯金局のFP対応

その後、郵政省貯金局でも同様の通信講座を開講するが、こちらは銀行研修社が受託した。

貯金局はこの流れを受けて、1996年には全国各地の郵便局で「暮らしの相談センター」(旧郵便貯金振興会が運営)が設置され、多くのFPが相談員として貯蓄・保険・住宅ローン
などの生活相談に対応した。

しかし、この相談センターも民営化で終わりを告げる。

中央郵政研修所でのFP研修

簡易保険局からの紹介により、国立の中央郵政研修所での営業員研修、局長研修などに近代セールス社からも講師派遣の要請を受けた。
担当講義は、ライフプラン・公的年金・金融経済・金融商品・所得税・相続税など多岐にわたり、まさにFP研修と言える内容であった。
当初は筆者がすべてを担当していたが、講座数の増加に伴い、小野英子氏、柴原一税理士、浅田里花氏、内藤真弓氏、目黒政明氏ら多くの方々に講師をお願いした。

記憶に鮮明なのは1995年1月17日の阪神・淡路大震災が発生した当日、筆者が朝早く講義へ向かい、昼休みに講師控室のテレビで見た神戸の凄惨な光景である。
隣の席に小野英子氏がいらしたことを憶えている。

郵政民営化に思う

1990年代、筆者および近代セールス社は郵政省簡易保険局と密接な関係を築いていた。
地方郵政局にも度々足を運んだが、当時の郵政省は極めて組織的だった。

ある研修会場で簡易保険局のトップともお会いしたが「郵政省は自衛隊と並ぶ一枚岩の全国組織です」と自慢気に語られていたのが、記憶に残っている。
民営化決定後も簡易保険局や貯金局を何度か訪問したが、対応する担当者に余裕というか、矜持のようなものが失われたように感じた。

2001年以降の小泉政権下で民営化が進められたが、筆者は個人的に失敗だったとの思いを抱いている。
現在では、一般社団法人郵貯財団がFP分野をフォローしているが、どうなのだろうか。

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