何が原因で何が結果? 【2017年 第4回】

【2017年 第4回 何が原因で何が結果?】 数字は嘘をつく

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

統計で関係のあるデータ、例えば東京の居住区と所得。港区の所得が高いようです。所得が高ければ、通勤に便利な家賃の高い港区に住むことが出来る、ということが考えられそうです。逆に港区に住めば所得が増えるという事はあまり考えられそうにもないですね。このように原因と結果の把握は統計分析に必要なことです。間違えるととんでもない結論に達します。

 

1.ダイエットサプリは効果が有るのか?

次のようなアンケートについて考えてみましょう。

「当社のダイエットサプリを3年間毎日服用している人にアンケートを採ったところ、なんと8割の人が20%以上の減量に成功している、ということがわかりました。」(注)

今回はこの統計について考えてみましょう。

もちろん、このアンケートは適正に行われているとします。回答者数もある程度大きな数とします。10人ずつのアンケートを採り、その中で最も都合が良いアンケートを採用する、などということは無いという前提です。

回答者も効果が有りそうな人だけ、というのではなく無作為とします。

ただし、無作為とは言ってもある程度偏りは避けられません。

ここでは、3年間毎日服用」という言葉です。当初1年程度服用していたが全く効果が無く止めてしまった、そのような人はアンケートの対象には入っていません。

以上の問題点を全て除いたとしたら、このサプリはダイエットの効果があるのでしょうか。

2.なぜダイエットに成功?

確かにサプリを服用している人は減量に成功している確率が高い。つまり、サプリの服用とダイエットは正の相関関係があるわけです。しかし、サプリのダイエット効果を証明できたとすることは早計です。

3年間もサプリを毎日服用している人は、ダイエットに関する意識が強い人が多いと考えられます。当然、食事のカロリーに注意を払うとか日頃の運動なども実施している可能性が多いです。ダイエットはサプリよりもむしろそちらの効果の方が大きいかもしれません。

少なくとも、サプリを飲んでいるから安心、と毎日暴飲暴食している人が少ないでしょう。

この例は結論が「ダイエットに成功」。それと正の相関関係にあるのが「サプリの服用」です。これが原因の一つとも考えられますが、それ以外の原因が考えられます。

この他に「肥満している人ほど所得が少ない」という統計結果があります。ここでは肥満度と所得は負の相関関係となります。はたしてこの統計が適切に採られてかどうか分かりませんが、とりあえず適切として。

肥満の人は自己管理がうまく出来ない。また所得の高い人ほど忙しく、日常も動き回ることが多い。1日中ソファーに横たわりテレビを見ていることは少ないでしょうね。

肥満を直しただけで急に所得が増えたりすることは無いようです。

 

3.GDPと物価の厄介な関係

経済データについても考えてみましょう。

経済成長と物価について。一般的に次のように考えることが出来ます。

①経済成長は需要の増加を通じて物価を上昇させる。しかし生産力の向上を伴うのであれば、生産費の減少により物価の上昇を抑える

②物価の上昇は実質所得の減少を通じて成長を鈍化させる。しかし、将来の物価上昇の予測は現在の需要を高め成長を促進する。

要するに一概には言えないということでしょう。このあたりが経済学の厄介なところです。

そこで過去の年度ごとの日本の物価と実質GDPの散布図を見てみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これを見る限りGDPと消費者物価上昇率は正の相関関係が有りそうです。しかし強い相関関係かどうか?私の計算では相関関数は0.39。0が一般的に無相関、1が完全に相関ですので弱い正の相関ということでしょうか。

もちろんこのデータでは、どちらが原因でどちらが結果、だけではなく第3の要因も有ります。為替相場や国際経済、財政状況。なかなか複雑です

4.ダイエットすると所得が増える?

密接な相関関係にある統計データ。しかしその原因と結果を取り違えては誤った結論に達するでしょう。港区に引っ越しても、ダイエットに励んでも、それだけで所得が増えるわけではありません。

どちらが原因でどちらが結果?あるいはお互いに原因と結果を及ぼしあっているのか?またそれとは別な第3の要因が有るのか?

 一般的には、経済は成長すれば物価が上がる。物価を上げれば成長する訳ではありません。

もちろん、金融政策もそのような初歩的な過ちを犯しているわけではなく。インフレが消費や投資を刺激する効果を考えてのことですが、はたして、筋書き通りに事が進むかどうか?そこは歴史が証明することになりそうです。

(注)アンケートの文面は全てにわたり筆者の創作で、特定の企業や商品を示しているものではありません。

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