葬式の地域特性【2006年 第4回】

【2006年 第4回 】葬式の地域特性   相続

 猪股 豊⇒プロフィール

自分の葬儀を「親しい人とこじんまりと行ってほしい」とする人が四七・二%、さらに「行ってほしくない(家族だけで火葬、埋葬してほしい)」とする九・四%を加えると過半数が葬儀を身内で行って欲しいとしている。
さして、葬儀式に対する考え方に変化がある。
葬儀式は死者を「この世(此岸)」から「あの世(彼岸)」に橋渡しすることとの考えにより、仏教儀礼によれば戒名を授与し、引導を渡して彼岸に導くことが中心とされてきた。

葬儀式の意味合い

現在では「お別れ会」として、葬儀式の意味を「故人との別れ」と理解しようとする考えが最近の流れである。
ある調査によると、葬儀を「故人との別れ」と理解する人が六〇%と過半数を超え、「故人の冥福を祈る宗教的なもの」と理解する人が三二・四%にとどまっている。
これは、「高齢社会」により死は「生涯を終えて」のものと考えられる様になったことに起因する。

かつては「生を奪われた」ものとして死霊の怒りを鎮静し、死者の魂のあの世での安寧を願うことが葬儀式の意味であった。
しかし、毎年百万人を超える「多死」の時代をむかえ、葬儀の理解に大きな影響を与えるものとなったのである。

この動きを受けて葬儀式の形式が形骸化している事も事実であろう。
ちなみに葬儀後に火葬する県が28県。
火葬してから葬儀を行う県が東北地方を中心とした10県。
そし同じ県でもこの両者が共存している県が8県である。

地域による葬儀式の違い

関西で喉仏を「故人の魂(霊魂)の象徴として」拾う。
火葬して骨となることを成仏の徴と見る。
そして霊魂の象徴である喉仏を拾い上げ、これを墓あるいは本山に納骨して供養する。
死を霊魂と身体の分離と見る観念、霊魂の成仏という死生観からくるものである。

関東では全部の骨を収めた後、灰まで集めて入れる。
「灰寄せ」といわれ、遺族は丁寧に足から遺骨を拾い、頭を上にし、人体の骨格そのままに骨壺に収めて持ち帰る。
遺骨は死者そのものという認識により全骨が拾骨される。
東北では戦後まで土葬が主流であったところが多く、火葬となった現在でも、関東式の全骨拾骨方法がぴったりとくるものであったため「灰寄せ」の儀式が行われている。

東海地方の葬儀式

東海地域での葬儀式の特長を見てみると、静岡県では通夜は自宅、葬儀は寺院で行なうことが多く、県内各地に「弔組」が残されている。
静岡市、下田市では葬儀の前に出棺し、火葬にされ、遺骨をもって寺院に行き葬儀を行う。
遺骨は葬儀の後、境内の墓地に埋葬され、そのあと精進落としが行なわれる。
静岡市内では、その場で香典返しが行なわれる。

愛知県では通夜、葬儀は自宅が多い。
通夜には、香典の他「淋し見舞」を出す習慣があり、名古屋市周辺の瀬戸・一宮では、喪主が白装束を着ける習慣が残っている。
葬儀のあと、火葬し、その日に初七日法要が行なわれる。
岐阜県では通夜・葬儀は自宅で行なうことが多い。
高山市では寺院葬が多く、葬儀のあとに火葬が行なわれるが、郡部では土葬の地域が残されており、その際には野辺の送りが行なわれる。
このように、葬儀式の手順や遺骨に対する考え方については、いまだに地域性が残っていると言える。

これからの「多死」の時代にとの様な変化が現れるのか、日本人の死生観に影響を及ぼすものであり、日本人としての魂の承継が望まれるところである。

 

【2006年8月15日】

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