岡本英夫のFPウオッチャーだより 第5回 インフレ時代のファイナンシャルプランニング(デフレ時代の終焉か?) 【2022年8月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第5回目です。

岡本英夫プロフィール

わが国がデフレに突入したのは・・・1999年前後。
政府は2001年3月16日(50歳の誕生日だった)に日本経済が「緩やかなデフレにある」と表明したが、その時点で2年程度の物価下落が続いていた。

筆者は1998年に「ファイナンシャルプランナーの時代」(近代セールス社刊)を執筆したが、数年後に読者から「インフレが前提となっている記述が気になります」との指摘を受けた。
その最たるものが「リタイアメントプランニング」についての記述だった。

15年後のお金の価値は?(インフレで目減りする)

当時、45歳のサラリーマンの月間生活費は40万円。
60歳になる15年後に同水準の生活を送るとしたらいくら必要かを考えるとき、インフレを前提に考えた。
年3%で生活費が上昇(お金の価値が下落)していくとすれば、終価係数の3%、20年の1.558を乗ずれば約62万円になる。

ところが、長らくデフレの続いたわが国では、この月間生活費は「絵にかいた餅」だった。

2019年の「老後2,000万円問題」で前提となった月間生活費は約25万円である。
豊かな老後生活という場合でも40万円あれば十分だろう。

わが国の月間生活費は20年間変わっていないのである。

ここから老後に受け取れる公的年金と、退職時に受け取れる退職金の見込み額などの額を差し引いて準備すべき老後資金を求めるのだが、当時の公的年金は60歳から報酬比例部分と定額部分が受給できた。
平成6(1994)年改正で定額部分の昭和28年4月2日以降生まれからの廃止が「最終的な姿」として決まっていたが、それでも年金は物価上昇(インフレ)率に完全スライドする前提だった。

平成12(2000)年改正、マクロ経済スライドの導入などは、考慮することなどできなかった。

退職金(企業年金)も運用難は指摘されていたが、5.5%の運用利率が前提にあった。

2001年以降、確定拠出年金や確定給付企業年金が創設されるが、適格退職年金の廃止(2012年)や厚生年金基金の実質廃止(2014年)までには10数年を要したのである。

キャッシュフロー分析の変動率(予定利率)がポイント!?

キャッシュフロー表分析で収入や支出を将来にわたって予測するとき、毎年の変動率がポイントになる。
90年代までは給与収入の増加率を3~4%、基本生活費の変動率も同様に設定していた。
教育費の変動率は4~5%と高めに、預貯金残高も預金金利をもとに2%程度の運用利率で推移するものとしていた。

この設定に疑問を感じたのは、年金の物価スライド率が0.991となった2003年頃である。

以降、給与収入は上がらないどころか・・・社会保険料の上昇などで下落、新卒初任給は20年間ほとんど変わっていない。
預貯金金利は下がり続け・・・現在は0%。
日経平均株価もリーマンショックを経て、一時は7000円を割り込んだ。

デフレスパイラルでわが国経済は縮小、金融政策は異次元緩和が10年間続き現在に至っている。

デフレマインドからの脱却を!

さて、現在のリタイアメントプランニングだが、キャッシュフロー表の変動率は0%。給与収入は50歳台半ばから横ばい、60歳以降は継続雇用により大幅下落、年金は現在価値のまま、生活費は縮小均衡となる。
教育費の準備も学資保険は有効ではなく、奨学金やローン活用を織り込む。

1980時代、90年代とは様変わりである。

実は,これが「デフレマインド」なのである。

今日より明日が豊かになる時代が戦後の昭和だった。
物価が上昇を続ければ、値上がり前に消費しようとする。
個別株も不動産も将来の値上がりを見越して買う。
上がれば売り、買い替え、住み替える。デフレに良いデフレはないが、インフレには良いインフレがある。

インフレを知らない世代は物価上昇に驚いているが、今が転換期だと考えたい。

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