池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 【第6回】 「9月もマーケット動乱続く」

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

【第6回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 「9月もマーケット動乱続く

池田龍也プロフィール

▼8月の乱高下に続いて9月の激動続く

大荒れに荒れた8月のマーケットですが、9月に入っても不安定な動きを続けていました。マーケットの動きを追っているだけで、というかそのニュースの流れを追っているだけで、いかにマーケットの関係者が移り気なのか、メディアの報道も、いかに一貫性がないかがよく分かります。

▼9月は報道も毎日右行ったり左行ったり・・・どれが本当かわからない状況に

 

 

 

 

 

検証してみましょうとか、細かく見てみましょう、などというまでもなく、日々のニュースを時系列で追うと、いかにマーケット報道が取材先の言い分に引きずられているかが分かります。マーケット関係者が先読み、思惑で売り買いするのは当然です。それは売り買いで利益を出そうと頑張っているわけですし、商売ですから仕方がありません、マーケットとはそういうものなんだと思います。それが時代を先読みして動いている、ともいわれ、経済状況の先行指標にもなっているといわれる由縁なんだと思います。ただ、それを取材して報道する取材者たちが、取材先が右と言ったら右と書き、左と言ったら左と書く、というのではあまりに節操が無さすぎると思いませんか。

▼9月のマーケット、時系列での検証

(お時間のない方、お急ぎの方はこのパート飛ばしてください)

9月4日
アメリカの経済指標(製造業の景況感)が予想を下回ってニューヨークの株価が下落、それをうけて日本でも4日、日経平均株価は一時1800円以上値下がりしました。円相場は値上がり、市場関係者は「アメリカの景気先行きへの不透明感から長期金利が低下、日米の金利差が意識され円が買われた」と説明。

9月9日
アメリカの経済指標(雇用統計)が予想を下回ってニューヨークの株価が下落、それをうけて週明けの日本でも9日、日経平均株価は一時1100円以上値下がり

9月11日
日銀の中川審議委員の講演での発言から日銀がさらなる利上げを検討するのではないかとの見方が広がり、日米金利差が縮まるという方向性で円買い、円高になり一時1ド=140円70銭まで値上がり、去年12月以来の円高に。

9月12日
円は1円以上値下がり。1ド=142円74銭から76銭に。市場関係者は「アメリカの景気の先行きに楽観的な見方が出たことで、アメリカのFRBは、来週の会合で大幅な利下げはしないとの観測が強まった。日米の金利差が意識され円売りドル買いになった」との話。

9月13日
円相場は1ドル=140円台後半まで円高進む。投資家の間ではアメリカのFRBは、来週の会合で大幅な利下げに踏み切る可能性もあるとの見方出ていることから円高進む。

9月17日
日本の祝日だった16日、円高進む。1ドル=139円台まで値上がり。1年2か月ぶりの円高水準。アメリカのFRBは、来週の会合で大幅な利下げに踏み切る可能性もある、との見方広がる。17日、日経平均株価は一時700円以上値下がり。急速な円高への警戒感広がる。

9月18日
円は1円以上値下がり。1ド=141円87銭から89銭。市場関係者は「アメリカの経済指標(消費関連)が市場の予想を上回り、アメリカの景気の底固さが意識され円売りが進む。アメリカのFRBが大幅な利下げを決めるのではないかとの見方から円を買い戻す動きもでた。」

9月18日(アメリカ時間)
米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めからの転換に動き始めた。18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は通常の倍となる0.5%の幅で4年半ぶりの利下げを決めた。高インフレの収束が濃厚となり、米国は持続可能な経済成長の姿を模索する。

9月19日
日経平均一時1000円値上がり。アメリカの金利引き下げで円安ドル高進む。一時2円以上の値下がり。午後は円高傾向に。

9月20日
日銀、政策金利据え置き。1円12銭円安、1ドル=143円62銭から64銭。

 ▼検証「メディアのいい加減さを知ろう

この間の報道のポイントを一覧にしてみましょう。大きな変動要因は、
▽ アメリカの景気の先行きへの見通し
▽ アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の行方
▽ 日本の動き、円とドル、株との関係
この3つの要素について記事ごとに一覧表を作ってみました。

 

 

 

 

 

 

 


アメリカの景気について
先行き不透明感⇒楽観的な見方⇒底堅い⇒インフレ収束
アメリカの政策金利
大幅な利下げはない⇒大幅な利下げに踏み切る?⇒実際に0.5%の利下げ
日本の円
買ったり売ったり、まあ忙しいこと。黄色が円買い、うすい青が円売りで交錯していることがわかります。

アメリカの景気への見方は、不透明感が漂ったり、楽観的になったり、短い間にころころ変わっています。アメリカの金利についても、あくまでもマーケット関係者の思惑、予想なわけですが、さまざまな情報が飛び交ってマーケットは動いています。それに翻弄され続けている日本の円は、といえば、上がったり下がったり、まるでジェットコースターのようです。

その時々で、マーケットの上がり下がりに理由をつけて説明しなければならないので、ついこの間の説明を否定するようなことが起きても、まったく意に関せず、また全く逆の説明をしているという状況が続いています。

もう3,40年前のことですが、バブルのころは円ドルレートが1円、円高に動くだけで日本の輸出企業の売り上げが何十億円のマイナスなどとニュースを書いていたのを思い出しますが、昨今の為替レートの動きは激しすぎて、隔世の感があります。

これまでのマーケットのストーリー

このコラムでも以前触れましたが、最近のこの激しいマーケットの動きを説明するためのストーリーは以下の通りでした。

 ・アメリカの景気がどうなるのかにピリピリしている
・アメリカの景気動向に応じてFRB(連邦準備制度理事会)が金利を下げるのか
・これまでそろそろ利下げかという予測に対してアメリカの景気は意外に力強かった
・アメリカの景気が底堅い中、FRBは利下げに踏み出せず、今に至っている
・日本では日銀がマイナス金利政策を解除して金利引き上げの方向に向かっている
・日米金利差が縮まれば円買いが加速して円高ドル安が進む

アメリカはとうとう金利引き下げに踏み切る

9月18日、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は0.5%の利下げを決定したと発表しました。利下げ幅は大幅、利下げは4年半ぶり、というニュースが流れました。

 

 

 

FRBパウエル議長は利下げについて語っていなかった

これに先立って、FRBのパウエル議長は、8月23日の講演での発言で、この利下げについて、すでに明言していたようなニュースが流れていましたが、実はよくよく発言内容を見てみると全くそんなことは述べていませんでした。発言内容は以下の通り。

The time has come for policy to adjust. The direction of travel is clear, and the timing and pace of rate cuts will depend on incoming data, the evolving outlook, and the balance of risks.

「政策を調整する時期が来ています。方向性は明確であり、利下げのタイミングとペースは、今後発表されるデータ、変化する見通し、リスクのバランスによって決まります。」

FRBホームページより(日本語はグーグル翻訳)https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20240823a.htm

パウエル議長が語っているのはこれだけです。9月の金利引き下げにも、0.5%の幅についても、まったく何も触れていません。ところが、メディア報道は、
「9月の会合で利下げに踏み切る考えを示した」
「9月の利下げをほぼ明言」
「9月会合で利下げに踏み切る考えを事実上“宣言”」
「9月に利下げを開始するとの見通しを裏付けた」
など、すでに利下げが決まったかのような見出しが躍りまくりました。

FRBはこのようなメディアの伝え方についてなにもコメントしていないようなので、パウエル議長の発言をどう解釈すればいいのか、どう記事にするのかは、記者の力量、取材力なのかもしれませんが、議長は一般論的なことを繰り返しただけなのに、「時期が来た」という表現にメディアが反応しました。過剰反応したのか、思惑通りなのかはわかりませんが、議長発言は何も踏み込んだ発言はしていないのに(これを業界では「マーケットとの対話」と言うようですが)結果的に、9月の利下げへの助走をうまく始めたといえるのかもしれません。

9月のマーケットは従来のストーリーでは説明不可能!

ただここで見落としてはいけないのが、このアメリカの金利引き下げの後の日本の円の動きです。

「円安ドル高進む。一時2円以上の値下がり」

円安なんです。何か変だと思いませんか。もてはやされていたストーリーは「日米金利差が縮まれば、円買い、円高になる」というものでした。アメリカは0.5%という大幅な金利引き下げを決断したわけです。日米金利差も大幅に縮まったわけですよ。マーケットの皆さんはどうしたんですか。待ちに待ったチャンス、ずうっと言い続けていた日米金利差、本当に実際に縮まったんですよね。予測とか思惑ではなく、実際の金利差が縮まったんですよ。円を買いまくるんじゃないんですか。

「え!なんで円安なの?」

ここでしろうとは思考停止になります。わけわからんなあ。「日米金利差のストーリー」は、売り買いのためのただの物語だったんですね・・・・・。いやいやみんなが振り回されましたよね。

「円のキャリートレード」という新たなストーリー

最近、話題になるようになったのが、新たなストーリー「円のキャリートレードの逆流が起きている」という説明です。

簡単にいえば、これまでは、投資家は、日本で安い金利で資金調達をして、アメリカに投資すれば、それこそ金利差で、黙っていても儲かる、円ドルレートを見ても、為替は円安で安定しているので、リスクが少なく、投資には絶好の仕組みだった。図解すれば以下のような状況。(緑の矢印の流れ)

 

ところが、ここにきて、日本は金利引き上げに動き始め、アメリカは金利引き下げに動き始めたので、日米金利差に着目した投資の仕組みがうまくいかなくなり、この「円のキャリートレード」が逆流し始めているというストーリーです。
(図でいえば赤の矢印になります)
まあ「日米金利差のストーリー」の派生形のストーリーなのですが、これも、それならば、この局面では、ずうっと円高になっていかなければならないわけですが、どうもそのようにはなっていません。

FRBの金利引き下げの時にさえ、円安になっていることも説明できません。もしこのストーリーでマーケットが動いているなら、アメリカの金利が下がれば、赤の矢印は激しくなって円買い、円高がどんどん進むはずなんですね。ところが為替相場はいったりきたりという状況です。

株価や為替は思惑で動いてきたが・・・・・

この夏のマーケットの乱高下は、これまで見てきましたように「日米金利差」というストーリーに基づいて、思惑や予測がめまぐるしく飛び交い、経済指標や関係者の発言などが伝わる度に、大きく揺れ動きました。
教科書では「株価の動きを見極めるためには、ファンダメンタルズが重要」と習ったような気がしますが、実際には、どうみてもファンダメンタルズを踏まえた動きとは思えない一貫性がない動きが目立ちました。
この夏の大騒ぎを冷静に分析してみると、マーケットはその時々の分かり易い「ストーリー」に従って思惑が飛び交い動いていき、メディアはそれを追随するだけ、ということのようです。そのような目くらましのような動きに目を奪われることなく、何が起きても、自分の目でみて冷静に考えるためには、このようなマーケットの本質を分かっていることが何よりも大事なんだと、改めて思った次第です。

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