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金銭教育から金融知力へ
杉山 明 

最近、「金銭教育」という言葉をよく耳にします。子供たちが大人になった時、“お金に関する知識が足りなくて苦労する”ことがないようにしょうという趣旨なのでしょう。FP協会や日本銀行などでも金銭教育に力を入れています。中学校では素直に聞いてくれないということで、小学校がターゲットになることが多いようですね。

 

ところで、小学校は金銭教育だけでなく、ほかにもたくさんの教育が持ち込まれます。税務署や納税関連団体は、こどものときから納税意識を高めようということで税務教育プログラムを提供します。火災に対する教育も必要ということで消防署もやってきます。さらに、防犯意識を高めるために警察も教育に訪れます。考えてみればすべて大切ということで、「金銭教育」だけをことさら強調して取り上げることは不可能です。つまり、小学生のときの、金銭教育は、体験学習の域を超えることはできないのです。

 

それでは、「金銭教育」が不要なのかといえば、そんなことはありません。ただし、本当に大切になるのは社会に出る前の段階、高校や大学において必要になるものだと思います。もっとも、この段階では「金銭教育を受ける」というより、「ファイナンシャル・リテラシー(金融知力)を身に付ける」と考えたほうがよいでしょう。基礎的なファイナンシャル・リテラシーを身に付けて社会に出て行ってもらうようにすることが大切なのだと思います。

 

基礎的なファイナンシャル・リテラシーというととても難しく感じますが、『お金に関することを、自分で考えて、自分で判断できる能力』と言い換えるとよいかもしれません。そのための前段階は、与えられた情報を正確に処理して自分なりの回答を出すことができること、そして、自分の出した回答に自信が持てることです。それなら、大学でやっている教育そのものではないのかと問われるかもしれません。そのとおり。大学で身に付けるべき、ものごとを考える力(思考力)を、金融の分野に応用したもの、それがファイナンシャル・リテラシーなのです。

 

私は、現在、大学でファイナンシャル・リテラシーの講義を担当させてもらっています。教育の現場で特に感じることは、ファイナンシャル・リテラシーは基礎となる一般的な思考力に比例しているということです。つまり、小学生や中学生に、将来、ファイナンシャル・リテラシーを身に着けた大人に成長してほしいと願うのであれば、一般的な思考力を涵養するようにしたほうがよいということにつながります。そして、一般的な思考力を涵養するために必要な手段は、英語・数学・国語です。

 

経済の話をするとき、貨幣価値の話をするとき、複利の考え方が必要になります。ある数のべき乗を計算するとき苦もなく計算できる人と、べき乗を見るのも嫌だという人では自ずと差がついてしまいます。数学が必要。

 

また、海外の情報を得るときに、英語のウェブサイトから情報を収集できる人と、日本語のサイトしか読めない人では情報に格差が生じてしまいます。英語も必要。

 

そして、そうして集め加工した情報を整理整頓してエッセンスだけを取り出すことができないと、情報を活かすことができないということになります。情報の整理は言葉を通じて行われますから、国語も必要ということになります。

 

つまり、ファイナンシャル・リテラシーを身に付ける早道は、英語・数学・国語の勉強をまっとうにやることに他なりません。

 

そして、基礎的な考え方が身についている人にとって、ファイナンシャル・リテラシーを身に付けることは難しいことではありません。金融に関する基本的な考え方や情報をインプットすれば、自然と身に付くでしょう。一方、基礎的な考え方が身に付いていない場合は、急がば回れ。金融知力の前に知力を磨くほうが効果的です。

 

金銭教育を受けたことのある大人になることが目的ではなく、ファイナンシャル・リテラシー(金融知力)が備わった大人になることが大切なのだと思います。

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